和まし日和
『きみどこの子?』
今日1日のメニューを終えて一足先に制服へと着替えてふらふらと校舎裏を歩いていた夏樹の足下に白い猫が擦りよってくる。
今まで学校で見かけたことはなかったところを見るからに最近入り込んできた野良猫だろう、本来なら真っ白な筈だろう毛が少しくすんでいた。
遊べというかのように依然頭を擦り付けてくる様子に自然と愛着が沸いた。
脅かさないようにゆっくりしゃがんで頭を撫でればゴロゴロと喉をならしてくれた。
『甘え上手なのね君』
なんとも愛らしいその姿に和んでいると後ろの方から足音がして振り返るとそこには驚いた顔をする荒北がいた。
その手にはビニールの袋が下げられていて中に何かが入っている。
「何でここにいるの夏樹チャン」
『荒北君こそどうしたの』
互いの顔を見ながらポカリとしていると腕の中に抱えていた猫が突然暴れだす。
慌てて離せば華麗に飛び降りて荒北の足下に擦りよっていった。
『もしかしてその袋の中身、その子の餌かなにか?』
「え、あ、まぁ」
『そっか、どうりで』
突然の態度の変わりようにもしやかと思ったがその通りだったらしい。
なんとも気まぐれな猫らしい行動だ。
擦りよる猫に慣れた手付きで餌を与える荒北を見てふと思うことがあった。
『もしかしてこの子荒北君が飼ってるの?』
「は...」
『やっぱりそ』
「んなわけないじゃナァイ!」
被せ気味にそう否定してくる荒北の顔は日の暮れかれた夕日の中でも分かるくらい真っ赤だった。
相変わらず見掛けによらない人だと思う。
甘いものがいけるくちだったり実家にはアキちゃんという愛犬がいてその子の写真が携帯の中に沢山あったり。
意外と可愛いところのほうが沢山あるよねと言うと周りには盛大に驚かれるが。
『優しくて可愛いとか最高だね』
「誰に言ってんのォ」
『あへ、はんまりやしゃしくない』
思わず本音を漏らすと荒北は口元をひくつかせて頬をつねってくる。
地味に痛くしてくるところはやはり容赦がない。
変な顔と鼻で笑うがそうしてるのは荒北なのだからそう思うなら止めてほしい。
彼が一通り満足して手を離した頃には頬がじんじんと熱くなるくらいには痛かった。
『誉めただけのなに』
「男にカワイイは誉め言葉じゃないんだヨ」
そう言って荒北は完全に夏樹に背を向ける。
丁度猫が餌を食べきったようで前足を伸ばしながら大きな伸びをしていた。
空っぽになった餌を片付けながらいつ手を伸ばそうか若干そわそわしている荒北の横顔を立ち上がって眺める。
そういう態度を可愛いと言わず何というのだろうと思ったが言えば確実にもう一度制裁を食らいそうなので黙っていた。
結局猫は荒北の手が触れる前にそそくさと何処かへ行ってしまった。
「ナンだよあの猫」
『まぁ野良猫だし仕方ないんじゃないかな』
「ンなことは分かってるけどヨ...」
ふるふると震える荒北の肩を見て相当可愛がっていたんだなと思いながら素早く耳に手を当てた。
「あのクソ猫!」
辺りに響く大声に思わず苦笑いを浮かべてしまう。
こればっかりは仕方ないことだ、と。
(今度はぜってー飯はやらねぇ)
(そんなこと言って見かけたらあげちゃうんだろうな)
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