弱虫ペダル | ナノ


  邂逅ジャメビュ


かさかさと腕の中で風に靡くプリントの山を抱えながら夏樹は小走りで部室へと向かっていた。
想像してたよりも委員会が長引いて福富に遅れると伝えた時間を大幅に上回ってしまっている。
怒られることはないだろうが新入部員が大勢入ってきて面倒を見なければならないこの時期に迷惑を掛けることはなるべく避けたかった。
階段を下る為に廊下の角を勢いよく曲がると目の前に人影が表れる。
思わず足に力を込めたが時既に遅し、階段の踊り場に盛大にプリントが舞った。

『御免なさい、急いでいて』
「あ、こちらこそすいません」

あまりにも盛大に頭を下げられるものだからなんだか此方がいたたまれなくなってしまった。
慌てて頭を上げるように言うとそっと顔を上げてくれた。
見慣れない顔に思わず首を傾げる。

『もしかして新入生?』
「はい、先日入学しました。1年泉田塔一郎です」

姿勢を正しながらハキハキと話す泉田に夏樹は呆気にとられた。
緊張しているせいもあるのか生真面で堅い空気を醸し出してるわりに長いまつげが特徴的な顔は可愛げはなんともミスマッチで。
その初々しくて新しいものに溶け込めてない感じがどうにも懐かしくて微笑ましくなった。

『そんなに硬くならなくてもいいよ』
「でも先輩に礼儀を欠くなんてそんな失礼なこと出来ません」
『それでもだよ、ぶつかったのは私が悪かったんだから泉田君が気に病むことじゃないよ』

ごめんねと謝れば「いや、そんな、」と泉田は下はを向いてどもってしまう。
気まずげになる空気を感じて思わず辺りを見回すとふとよく見慣れたものが視界に入ってきた。
半分程開いた鞄の中から見えたのは自転車競技専用の靴とグローブ。
同じ自転車乗りだったのだと分かれば自然と気まずさは何処かに飛んでいって代わりに頬が少しずつ緩んでいく。

『君もしかして自転車競技部?』
「え、どうしてそれを」
『それビンディングシューズとグローブでしょ、私も自転車競技部だからそれくらい分かるよ』
「そうなんですか?」
『うん、2年の今関夏樹です』

ぽかんとする泉田によろしくお願いしますと声を掛ければ彼も慌ててこちらこそと返す。
明らかに先程より堅くなった身体や表情に思わずここで正体を明かすのは逆効果だったかなと少し後悔する。
しかし嬉しいと思う気持ちは変わらない、自転車という共通の話題があるのなら尚更。

『何に乗ってるの?』
「BHです」
『えっとスプリンターかな』
「はい、そうです」
『速い?』

突然の問い掛けにまで丁寧に答えてくれていた泉田の声がここにきて止まる。
少しだけ答えを躊躇うような素振りをみせるが暫くすると苦笑いを浮かべながら此方へ向く。

「断言は出来ません、でも速くなりたいとは思ってます」
『そっか』
「やはり無茶でしょうか?」
『そんなことないと思うよ』
「そう、ですか」
『本当だよ、だって君自転車好きでしょ』
「それは勿論です」

即答だった。
「嫌いだなんて有り得ません」と言うその顔を見て思ったよりも芯の強い子なのだなと思った。
これだけは譲れないという意思が伝わる、そういう純粋で強い気持ちは大切だ。
それは夏樹自身が一番に分かってた、そしてそれこそが勝ちを分ける大きな要素になることも。

『じゃあ大丈夫だよ』

そう言って笑えば泉田はぽかんとした顔をする。
膝に手をついて立ち上がり辺りに散らばってるプリントへと手を伸ばしながら夏樹は口を開く。

『私の周りにも色んな人がいるよ、色々な目標で自転車やってる。けどねそんな人達にもね1つだけ同じ気持ちがあるんだよ』
「...あ」
『そう、皆ね自転車が大好きなんだよ。だからさ自転車好きって聞かれて即答しちゃう泉田君も充分仲間だってこと』

その言葉に緊張が溶けたのか漸く頬を少し緩めた泉田に手をさしのばす。

『技術云々はさ箱学に居れば嫌でも身に付くよ、だから今はその根幹を支える気持ちを大切にして』

きゅっと力を込めれば、はいと大きな返事を返される。
思わずびくついてしまうとまたもやすいませんと謝られる。
これでは先程の繰り返しだと思い返した所でふと妙案が浮かんだ。
お互いに自転車乗りならやはり一番簡単なコミュニケーション手段はあれしかない。

『泉田くん、今度一緒に走ろうよ。コースとかは私が決めとくからさ、一回君の走りも見ておきたいし』
「え、今関さん走れるんですか?」
『あれ言ってなかったっけ、私マネージャーじゃないんだよ』
「じゃあ、もしかして...」
『じゃあ改めて、今関夏樹、タイプはオールラウンダーです。よろしくね』






(女性の選手には初めて会ったのでちょっと意外です。華奢なんですね)
(女子は男子より身体が軽いのが有利な所だからね、あんまり必要以上はつけないようにしてるの筋肉)

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