弱虫ペダル | ナノ


  side.Tの考察


彼女は所謂ところの完璧主義という奴なのだろう、当たり前のように全てのことに全力を尽くして結果を出して、それでいて嫌みったらしくない。
人となりのの良さは天性のものらしく友達も多ければ密かにファンもいるらしい。
まぁ、このオレには負けるがな。
そんな彼女は今日も今日とて何やら机に向かって真面目に考え事をしている。
気になった俺は夏樹を昼食に誘うという本来の用事を忘れて隼人に話し掛けた。
本人はいたって真剣に悩んでいるし邪魔するのは忍びないからな。

「隼人」
「尽八じゃねぇか。どした?」
「いや、夏樹はいったい何をあんなに考えこんでいるのだ」
「あぁ、あれか」

そう言うと隼人は少し呆れ気味な笑みを浮かべて夏樹へと視線をやる。
その間にもガサガサと新しい菓子パンに手を伸ばしている、相変わらずな大食いで栄養バランスを考えない食事だが今は指摘せずにおこう。
そのまま隼人はパンをモグモグと咀嚼しながら「委員会決めをさ、」と続きを話し出す。

「午後から決めるらしいんだけどなんか朝方に担任からクラス委員やってくれないかって頼まれたらしくて」
「しかし夏樹は去年...」
「そ、去年あんなに大変そうにしてたのにな。でもあいつ頼まれると断れないタイプだから」
「そうか。しかしそれで彼処まで悩んでいるのか?」
「そこはほら、夏樹の性格上な」

仕方ないと言えば仕方ねぇよと言う隼人に何だか不満を持った。
ようは頼まれた以上断りがたいが仕事を完遂出来る自信がないということか。

「夏樹は自分の凄さが分かっとらんな」

思わずそう断言すると隣で隼人が驚いた顔をしていた。
そうだ、分かってない。いつだって夏樹という人間は必ずやると言ったことはやり遂げる。
その間にどれだけの過程や困難があっても絶対に諦めない、止まってももう一度足を動かすことが出来るそういう奴だ。
そういう奴だから皆夏樹に惹かれるのだ。
走りや言動からそういうものが滲みでてる彼女を皆は好きになる。
それはオレも身をもって体験してるから分かるぞ。
委員会の仕事の1つや2つこなせないわけがない。
そう語ってやれば隼人はポカンとした顔をして手にしていたパンを取り落とす。
「おめさん、夏樹好きなのな」などと言うから当たり前だと返してやった。
あんな出来た人間を嫌う奴がどこに居るという。
苦笑いを浮かべる隼人から視線を外して夏樹のいる席を見る。

「居ない!?」

さっきまでそこにいた姿は忽然と無くなっているそこをあんぐりと見詰めてると隣から「東堂君何しにきたの?」という呆れた声が聞こえる。
驚いてそちらを見るとそこにはさっきまで座ってた筈の彼女が。

『嬉しいんだけどあんまり大声で話すのは控えてほしいかな』
「良かったな夏樹、おめさんモテモテだよ」

着いていけないオレをおいて和気藹々と会話を始める2人にオレにしては珍しく恥ずかしくなって今すぐここから逃げたいしたい気分になった。
本人が聞いてない前提で話したあれを聞かれていたのかと思うと恥ずかしくて仕方ない。

『そうだ東堂君、お昼まだだよね。一緒に食べようよ』

そう言ってにこりと笑う彼女にますます消えてしまいたくなった。






(結局オレは何をしに来ていたんだ?)


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