悪夢も翳る君の手で(4/5)



その影は音も無く忍び寄っていた。

「ラーメン旨かったな」
「だな、ご馳走さん、坂東」
「なんで俺が..なんで..」
「まぁまぁ、仕方ないじゃん。ジャンケンで負けたのさんちゃんだし」

千歳と出羽と坂東、そして赤城。
四人の中誰一人としてその気配に気付くものはいない。

そうして四人を叩けるだけの間合いに入った影はどこからか取り出した鉄パイプを握りしめる

『あの..』
「「「「?」」」」


路地に鈍い音が響きわたった。




* * *




「なんや最近多いなこの手のニュース」

ワンセグから流れるニュースの内容に草薙は煙草をくわえながら独り言を零す。
その声は人気の少ない空間のせいかどこか嫌なものを含みながら自分に帰ってくる。考え過ぎか、と予感を一蹴した草薙はソファに座りぼんやりと宙を眺めている男に声をかける。

「尊はどない思う、コレ?」
「あ?」

目も眩むような鮮やかな赤色の髪と琥珀色の瞳を持つ男、周防尊は草薙の声に宙を浮いていた視線を彼に向ける。
暫くの間、画面の変わってしまったワンセグを眺める。
そして諦めたように草薙に視線を移すと
「わり、聞いてなかった」と答える。

「..せやよな、そんな気がした」
「?」
「さっきなここら辺で傷害事件が多発してるいうニュース流れててな、それについてどない思うって聞いたんや」
「? 別に..気にする程のことか?」
「気にすることやから聞いてんのやろうが」

はぁ、と草薙は深い溜め息をつく。
興味があるないに関わらず周防は基本、全てのことに無関心である。
それは自分が学生だったときから変わらず寧ろ拍車が掛かってるようにすら感じられる。
いつもぼんやりと宙を見つめる瞳に光が宿ることはほとんどない。
掴み所のないそれが周防のカリスマ性を引き立てる要素の一つなのかもしれないが、長年付き合ってきた身としては直してほしい一点でしかない。

「その傷害事件、全部鎮目町で起きとるんや」
「......」
「何も思わんのか?」
「何で俺が..」
「そこはほら、鎮目町の裏のトップとして、」
「んなもんになった覚えはねぇ」
「事実そうやろうが」

無自覚な発言をする周防に草薙はなんとも言えない顔をする。
吠舞羅の名を出せば大抵の人間は畏れの色を見せる。
それは単に周防の存在のお陰であると言っても過言ではないのだ。

「..目に余る様なら動く」
「尊..」
「これで文句ねぇだろ」

意外ともとれる言葉が周防から紡がれる。少し前の周防なら先の言葉のように面倒くさいで一蹴していただろう。
そうならなくなった分、大人になったか、王としての自覚が出てきたか。
しかしすぐに後者はないなと草薙は苦笑いを溢す。

「..大人になったなぁ」

大人になったとするならそれはきっと周防の周りに傷付けたくない人間が出来たからだろう。
自分の無秩序な暴力の力で仲間に被害が及ぶ、それは何よりも周防が恐れていることなのだから。

「なに気色悪いこと言ってやがる」
「いや、なんや尊の発言が頼もしく思えて」

「...チッ」

周防は舌打ちをすると草薙から顔を逸らす機嫌の悪さが顔にでる所はまだ子供だなと内心笑いながら携帯に手を伸ばす。
そこで草薙は店の外が騒がしいことに気付く。
まだ昼の時間帯、客足の少ないこのバーの通りが賑やかになることはそうない。
となってくるといよいよ心当たりはグループの少年たちへと向けられる。

「ったく、最近の若い子達は昼間っから元気やな」

外にいるであろう彼らに草薙は思わず呆れた声で呟く。
向こうが扉を開ける前に開けて一言灸を据えてやろう、そう思い扉を開けた草薙は驚きに目を見開く。


カランッと扉のベルが虚しく響く。


「な..何が、あったんや自分等」


そこにはズタズタになった千歳と坂東を支える出羽と赤城が立っていた。






(赤い彼らを赤く染めた)
(その手は何色に?)

 

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