眠れぬ夜を開く鍵(3/5)


『吠舞羅ですか?』
「そうだ、赤の王率いるクランズマン達だ。知っているな?」

訝しげな声が倉庫内で反響する。
殆ど光の当たらない倉庫の中では唯一見えるのは相手の輪郭のみ。
フードを被った女は、漸く暗闇に慣れてきた目を凝らして目の前で悠然とソファに座っている相手を睨み付ける。

『本気ですか?』
「冗談に聞こえるか?」
『むしろ、冗談にしか聞こえませんね』
「それは仕方ないことだ。
向こうはトップに王を戴いている、だが俺らはたかだかストレインの集まりだ。叶うわけがない」
『だったらどうして…?』

男は自分の言葉の矛盾を正そうともせずに女を愛おしげに見つめる。
しかしその瞳から感じられるのは真っ当な人間に向ける愛情ではなかった。
どちらかというと愛玩動物といった所有物に向けるような、歪んだ愛情の篭った視線に女は眉間を更に深める。

「お前がいるじゃないか」
『……!』
「お前は吠舞羅の連中とそれなりに仲が良い。それにお前のストレインは中々役に立つし、何より……強い」
『…買い被りすぎてすよ』
「そんな事はない。お前の組への協力的な態度はすば抜けている。今回もいつも通りやってくれればいい」
『……』
「出来るな?」

男は女の耳元で一言囁くと、肩を軽く叩きながら奥へと足を進める。

「手段は問わない。出来るだけ早く吠舞羅を潰せるだけの情報を集めてきてくれ」
『…了解しました』

不満そうな声を隠す様子すら見せずに女は男の背中にそう返しすかさず踵を返す。

倉庫内に響く二つの靴音が徐々に距離を開けていく。
片方の靴音、男の方が足を止めて、ふと後ろを振り返る。

「期待しているぞ」

そこに女の姿は無く、あるのは只の反響音だけであった。




(残された音と沈黙)
(それは言外の拒絶)

 

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