code 51

「このタワー内で特に電気消費が激しいのは...二箇所ですね。最上階付近と地下」
「どっちが本命かな?」
「屋上近辺は電波塔ですからね、そりゃ大量の電力消費も当然ですよ。ところが下の施設はここからでさえ詳細が掴めない」
「案内表示では地下4階までしか無いようだが?」
「それがね、設計当初の図面だと地下20階まであるんですよ、こいつは胡散臭い」

警備のドローンもそこにいた職員も全て壊して槙島とチェ・グソンしか声を発してなかった静かな空間を割くようにけたたましい電子音が鳴り響く。

「ん...?」
「どうした」
「もうこっちに公安局の車が向かってます」

画面を見れば"POLISE"の文字をまとった警察車が走っている映像が映っている。
槙島は思わず口許を緩めた。

「きっと狡噛慎也だろう、驚かないよ」

そう言って窓の外のホログラムの街を一眺めする。
こんな時でさえ俯瞰で見る街の景色は一向に代わり映えのしないものだった。

「二手に分かれよう。僕は上、君は下だ」
「いいんですか?この場合本命は」
「狡噛は僕を狙ってくるだろう、なら陽動を引き受けるのが合理的だ。チェ・グソン、君の働きに期待してるよ」
「...分かりました、お任せを」
「さて、パーティーもいよいよ大詰めか」




* * *




赤い血飛沫がそこら中に飛び散るのに呼応して小さな喘ぎがこぼれる。
しかしそれに意味はなく、ただ刺されることに対する機械的な反応のようなものだった。

滅多刺しにされた男の上に跨がった少女は顔や身体に血が飛び散るのにお構い無しだった

「......ぃぃ」

ふと呻き声とは別の声が暗闇の静寂の中に響く。

「そ、れで...こそ、わたした、ちのむ...め。神のぃしきを、ぅけつ...もの」

別の所で大量に出血してる男は出血多量で蒼白くなった顔に恍惚とした笑みを浮かべて少女を見つめる。

「すべての、にんげんにびょう...どうの恩寵を。も、だれもくるしむ...ないかんぜんな世界...がっ」

血反吐を吐いてとうとう虫の息になった男の側に少女がしゃがみ込む。ふいた顔から表情は伺えない。
ただ震える腕に落ちた血ではない温かい雫に男は目を見開く。

『博愛主義気取りですか』

そうしてそのまま声をあげることもままならず絶命する。

『貴方たちは単純にその平等な世界とやらに入れてほしいだけでしょう、自分が仲間外れにならない世界を自分で作る、そうしてそこで安穏と暮らしたかった。とんだ茶番です。』

深々と刺さったナイフを手放した少女はまるで埃でもはらうかの様に体を叩く。
濁っていた目に強い光が灯っているのを、ことの一部始終を眺めていた監視カメラが捉える。

『それでは神の意識を持つ皆さんに一つ』





* * *




狡噛と朱と別れた縢は点々と光る地下を行っていた。
明らかに異質な雰囲気を放つ空間をぐるりと見回すが暗くて遠くまで見えず、訳の分からないまま唐之杜の指示に従い先に進む。

「ねぇセンセー、さっき上に四人下に四人つったじゃん」
「"えぇ、言ったけど"」
「そのどっちかに名奈ちゃん居たりした?」
「"...そっか槙島が関わってるのよね、だったら。でも残念、見た限り女は居なかったわよ"」

唐之杜の言葉に縢は思わず苦笑いを零してしまう。これではまだしばらくは狡噛の不機嫌が治ることはないだろう。

「なーんだ」
「"秀ちゃん?"」

だったら尚の事こんな下らない計画をさっさと止めなきゃならない。

「なら早く探しに行ってやらないとね、名奈ちゃん寂しくて泣いちまうよ」
「"…そーね、そうしてあげましょ"」

唐之杜の同意に思わず縢は口許を緩める。
見ず知らずの善良な市民様の為に動くより大切な仲間の為に動くほうが何十倍もいい。
ようやっとこの暴動を早々に鎮火するための明確な理由が出来た。


しかしそう穏やかな空気が流れたのも束の間。
縢はすぐに手にしていた銃を固く握り直す。

「センセー、ここの地下フロアって四階で終わりのはずだよね」
「"そのはずなんだけど"」
「......嫌だなぁ、俺、こういうの柄じゃねぇのに。やめてくれよ」

パネルの敷き詰められた壁に開いている一つの穴。
大人一人が通るくらい何てことのない大きさの底から下を見下ろす。
明らかに見取り図よりも深いそれに縢は思わず顔を苦めることしか出来なかった。






(イレギュラー事態発動)
(さて、どう対処する?)

[ 54/61 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -