code 50

『サイコハザードって怖いですよね』
「まぁ、確かに厄介ではあるが改めてどうした」
『他人のを見たり自分の話を聞いてるとしみじみそう思うんですけど、あれってサイコハザードさせられた側の人間の方がどちらかというと過激な手段に出るじゃないですか』
「...言われてみれば確かにな」
『健全に保っていたサイコパスがある日突然数値の悪い人の近くに居たってだけで悪くなるのが耐えられないんでしょうね』
「サイコパス悪化による動揺と原因を絶たねばという脅迫観念ってところか」
『そうですね』
「だがその為のシュビラでありパラライザーだ、一過性のサイコパスの悪化なら保護してセラピーを受けさせることができる」
『そう、なんですけど。もしそのサイコハザードの規模が数十人、数百人の規模で起きたら?』
「...?」
『例えばとある誰かがテロを起こしてそれが社会全体を恐怖に陥れるものだったとしたら?』
「まずテロを起こそうって考えようもんならたちまち色相が悪化してドミネーターの餌食さ」
『じゃあ仮にそれすら突破する方法があってテロが起きてしまった時、きっとこの社会は混乱の渦に飲まれるんじゃないでしょうか』
「どういうことだ?」
『かなり大規模なサイコハザードが起こりうるってことです。そして多くの市民が武器をとる、サイコハザードの原因を排除しなければという集団心理に駆られて』
「確かにな、一理ある。だがあくまで可能性の話だからな、あんまり深く考えるとまた色相が悪化するぞ」
『...そうですね、すいません。監視官の狡噛さんにこんな話して』





「まさか本当に起こっちまうとはな」
「どうしたんですか?」
「いや...こいつらも被害者だと思ってな」

無造作に転がっているヘルメットを拾った狡噛はそれを被って暴れていただろう人々を見つめる。
グレネードにより無効化されたヘルメットは只の玩具とかわりない、それを分かった上で暴れる市民はいなかった。

「確かに、犯罪に巻き込まれなければ市民の暴徒化なんて」
「違う。ヘルメットの方だ」

あの時名奈が言っていたことがどういうことなのか狡噛は漸く理解した。
正に混乱の渦と言うに相応しい状況。
そしてその渦に確実に自分達も巻き込まれているということを狡噛はひしひしと感じ取っていた。

「今やった様に時間は掛かるがいずれヘルメット着用者は全員狩り殺される。俺たちがやらなくても市民がリンチにかける。
さっきちょっと気になったんだ、ネット上のデマが攻撃的な方向に偏っている。これが槙島の情報操作の一環だとしたら?」

はっとする縢と朱にその通りだと頷く。

「奴自身か...それとも奴の仲間か、どちらかが凄腕のクラッカーなのはもう判ってる。そうじゃなきゃ出来ない犯罪ばかりだった。
...今投降してヘルメットを脱いだ連中の顔を見てみろよ、ヘルメットが無けりゃ何の犯罪も出来ないクズ共だ、ある意味槙島の掌の上で踊っていただけさ」
「ちょい待ち...ってことは槙島の狙いは」
「すべてが奴の筋書き通りだと仮定する。今俺たちがやっていることさえ奴の思う壺だとしたら」

次第に予感が確証に変わっていく、それと同時に今回の件がただ事ではないと覚悟していたその更に上をいくものであるのではという若干の焦りが生まれる。
急いでパトカーに乗り込んで暴動区域全体のマップを表示する。

「監視官、まず優先対象として鎮圧要請のあった暴動箇所は?」
「えっと...ここです」
「考えられるのは陽動だ、これが全て刑事課の人員を誘き寄せるためだけに予め暴動が激化する様に仕組まれたポイントだとしたら...」

狡噛が検索条件を入力していくとたちどころにポイントが絞られる。
結果的に残ったその赤い点が示す場所に三人は驚愕した。

「まさか...」




* * *




武装した集団を連れた槙島は"厚生省ノナタワー"の前にいた。
グソンの推測により導きだされたシュビラシステムが存在するだろう場所に。

「さぁ、それでは諸君。ひとつ暴き出してやろうじゃないか、偉大なる神託の巫女の腸を」






(とく、とく、とく)
(少女は未だ夢の中)

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