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「狡噛...」

スライドされたドアの向こう側に居る狡噛に宜野座は思わず驚く。
呆然と立ち尽くす彼に気付いたのか、狡噛は目を大きく吊り上げる。

「どういうことだ、ギノ!何故名奈にこんなことをさせている!?」
「そ、そんなこと聞かずとも分かるだろう。雨宮は有力な情報を持って...」
「こいつはまだ病み上がりだ、無理をさせて何かあったらどうする」

厳しい口調で問い詰めてくる狡噛に宜野座は返す言葉もなかった。
元々モンタージュ事態にいい色を示していなかった宜野座だがその理由では局長の決定に反対するには弱すぎた。
局長直々に名奈を連れてきてくれた訳だが、連れて来られた名奈の表情は沈んでいた。
本当に大丈夫なのか、そう問うてみたが返ってきたのは弱々しい微笑みだけだった。今になって後悔が押し寄せてくる。

何も言わない宜野座に痺れを切らしたのか狡噛が名奈の前に立っている局長に口を開こうとする。

『待って下さい!』

それを遮るかのように名奈が狡噛の前に立つ。

『宜野座さんは何も悪くないんです。
これは私も同意の上で行ったことだから』「だが...」
『平気です、自分の限界は理解してますから。それに数少ない人員を自らの手で駄目にするなんてこと局長はしない筈です』
「......」
『だから宜野座さんを責めないで下さい』

宜野座は目の前の光景をぼんやりと眺めてた。
いつも通りの名奈と狡噛の睦まじげな関係。
この場の空気に睦まじいという言葉は酷く違和感を感じるがそれでもいつも通りだ。

いつも通り名奈のことになると狡噛は少しだけ感情的になって。
いつも通り名奈はそれに困った顔をして。それでもほんの少し嬉しそうに目元を弛めている。


それがとてつもなく気味が悪い。

今、ああして狡噛といつも通りの会話を装っている人物は名奈ではない。
先程までの普段とは真逆の性格を露にしていた、最早別の人間と言っても差し支えない位に違いのある人格。

「分かった、だけど無理はするなよ」
『はい』

狡噛にその事実を告げるべきか否か。

(.......クソッ)

宜野座は拳を握りしめる。
自分はいつだって大切なものはなくしてしまう。
そうやって後悔をしながら、もう二度とと考えながらも、


『宜野座さん』

俺は――――

『 』




* * *




「何を言ったのかね?」
『ん?』
「宜野座君にだよ、狡噛君の位置から見えない角度で何か言っていただろう」
『あぁ、あれね。只の口封じのようなものですよ。あのタイプの人間は大事に思っている人ほど肝心な時に関わり方が分からなくなって距離を置くしかなくなるんですから。
ああ言えば暫くの間は黙っていてくれると思いますよ。』

宜野座伸元とはそういう人間だ、名無はそう考えていた。
まだ表に出る前、名奈が公安局に入り初めて体験したあの壮絶な連続殺人事件の時から彼にはその片鱗があった。
尤も狡噛が執行官落ちしてからそれが顕著になったといあ見方もあったのだが、それは何処か違う気がした。
彼は常にサイコパスを恐れている。
周りの人間が悉くサイコパスによって自分の隣に居てくれる存在ではなくなる。
そんな悲しみと怒りを抱えながらもサイコパス判定の中枢であるシュビラを疑い嫌うことができない。

"板挟み"

宜野座は当にその状況にいてどうしようもなくなっているのだ。

「...余り私の大事な部下を弄ばないでくれたまえ。使い物にならなくなるのは君がさっき言っていた通り痛手だからね」

そしてそれをこの上司は如何にも楽しげに眺めている。
言っていることと表情がまるで正反対だった。

『...本当に貴方は白々しい』
「その点は君には敵わないよ、先程の演技は良くできていた」
『ふん、そんなことより良かったのかい?僕までモンタージュをやってしまって。これじゃあ常守監視官の槙島に対する情報を裏付けする要素にしかならない』
「あぁ問題ない筈さ、君だって知っているだろう。彼は僕らの持ちうる知識や思考であばける人間ではないということを」
『だからこそ槙島が欲しいと?』
「まぁそんなとこかな」

子供のように目を輝かせながら嬉々として話す禾生を名無はまるで温度のない目で眺める。
用事は済んだとばかりに名無が部屋から出ていこうとする、すると

「もう行くのかい?」
『はい、協力はここまでです。約束通りちゃんと手筈してくださいね』
「勿論。それと出来ることなら彼の懐柔を頼むよ」

そう言って禾生は椅子をクルリと回して向こう側を向いた。


その時名無は確かに見ていた。
禾生の首の後ろからケーブルのような何かが椅子にむかって繋がっているのを。


『そこまで頼まれた覚えはないですよ』

部屋を出る瞬間後ろから小さな呟きが聞こえた、「とうとう面が割れちゃったね」と。






(手に掴めないモノが多すぎて)
(僕はキミを見失う)

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