code 7

「あ!」
「!」

曲がり角を曲った先で朱とぶつかった

昨日の夜以来気まずくて刑事課のフロアには行ってない。
暴走する度にこれでは皆に迷惑をかけるとは分かっている。

(いい加減克服しなくちゃ)

気まずさを我慢して話しかけようとすると意外な事に朱もこちらから目をそらしている。

寧ろ朱の方が気まずそうにしていて思わず気が抜けてしまう。
自分より少し小さい朱を見つめていると勢いよく小さな頭が上がる。

「あの、聞きたい事があるんですけど…」
「うわっ!」

物凄い剣幕で話しかけてくる朱に思わず変な声を出してしまった。とりあえず落ち着くようにそっと肩を叩くと朱はハッとして下を向いてしまう。

「……」

朱がまたしても黙り込んでしまった。
よく見ると彼女には先日の使命感に溢れた表情はなく、疲れきっている。

ーやっぱり昨日の事だよねー

朱が簡単に折れるとは信じたくないが、その可能性も否めない

どうやって朱を励まそうか考えていると朱の方から声をかけてくる。

「すいません、やっぱり相談事聞いてもらってもいいですか?」
「えっ…相談?」

#

「…という事があって縢君を怒らせてしまって」
「そっかぁ…」
食堂に戻るのは気が重いらしく変わりに名奈は自分の部屋に朱を招きいれた。
もてなし用にと出したコップには水滴が出来ていて長い間喋っていた事を物語る

朱の話を纏めると、どうやら先日の事件で行き詰まってしまった彼女はこの仕事を選んだ理由が分からなくなってしまったそうだ

-自分にしか出来ない事をしたい-

確かにその心がけは大切だと思う。しかしそれはどうしようもなくてこの仕事を選んだ自分達執行官に対する侮辱である。
縢が怒るのも無理はない。

「確かに、それが私でもいい気分はしませんし…」
「……。」

朱が落ち込んでしまい必然的に部屋の中に沈黙がおりる

これは根本の原因を絶つしか解決方法はないように思えてきた
「常守監視官、狡噛さんに会いましょう!」
「え… えぇ!」

恐らくこれ以上外野が何を言っても朱は納得しないだろうし、何より彼女の心にコレで正しかったのかという靄がかかってしまうだろう。

その靄はいずれ朱の真っ直ぐな心を飲み込み彼女を変えてしまうだろう。
今の自分がそうであるように…

そうと決まれば善は急げ。
名奈は朱の手を取り狡噛の病室へと引っ張って行く。

「あ、あの雨宮さん」
「何ですか?」

返事はするけど振り返らないでおく。止まったらまたしんみりした空気になりそうだ。

「私は正しいことをしたんでしょうか?」

何とも言えない質問だった。正しい、正しくないなどはたった一時の主観で決まるものだ

それにもし名奈が正しいと言っても他の人が同じく正しいと想う訳ではない。

「…はい。常守監視官は正しいと、少なくとも私はそう思ってます」

だからこそ心から思う。
朱には彼女の中の正しさそして自分に忠実であってほしいと…

「あ、着きましたよ」
「! ここが…」
「それじゃあ頑張って下さい」

きっと狡噛なら自分より適確なアドバイスをしてくれる筈だ
そう安心して部屋に戻ろうとすると後ろから声がかかる。

「ありがとう。 名奈ちゃん!」

突然呼ばれる名前に名奈は驚く
同年代の人から名前を呼ばれる事は殆ど無かった。
というよりも呼んでくれる仲の人間が居なかったというのが正しい

狡噛や六合塚に名前を呼ばれるのとは違う、むず痒い感じがして思わず笑みが広がる

「あ、イヤ、その私達ってそんなに年齢も違わないし苗字で呼びあうなんて何か変だなと思って… それに上司だなんて言っても実際私のほうが後に刑事課に来てるし…」

一生懸命名前で呼びあう事の理由を説明している朱は本当に、真っ直ぐな人なのだと思う

「じゃあ、朱ちゃんで良いですか?」
「うん、全然良い。
改めてよろしくね名奈ちゃん」
「はい、よろしくお願いします朱ちゃん」 


(むず痒いその感覚)
(少しだけ心が通った気がした)

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