code 40

「すごい....やったよ!あたしたち勝ったよ!」

失血のせいで意識が朦朧とする。
そんな中、嬉しそうなゆきの声が聞こえてくる。
安堵の色を濃く滲ませているその声に思わず気が抜ける。
最早立っていることは出来ず、狡噛は膝を着く。
手のひらからも力が抜けてドミネーターが滑り落ちる。
それを拾い上げようとすると両手を温かなものに包まれる。

「ここを出たら....すぐに、セラピーを受けろ....あんたは、見るべきじゃないものを見すぎちまった」

そうだ、まだこいつを連れ帰ってない。
早いところ常守に会わせてやらなければ..
霞んでいた視界がとうとう黒くなる。
同時に両手を握っていた温もりが離れていく。
それがつい最近の出来事に重なって感じられる。

(何で今アイツが出てくるんだ?)

名奈が居なくなったと報せを受けた時、確かに自分の中から何かとても大切なものがなくなっていく感覚に見舞われた。
それはジワジワと染み込むようで、一気に衝撃を受けるより何倍も質が悪く感じられた。
その時の事を思い出すと今でも胸の辺りが黒い何かに覆われる。
今回の件とは全く関係のないことなのに―――

(俺も相当末期だな..)

そう自嘲し狡噛は今度こそ意識を手放そうとする。


「――――っ」

しかしどこか騒がしい様子にそれは中断される。
すぐ近くで誰かが揉め合っている気配。

「やめて!はなしてっ!」

今度は先程より鮮明に聞こえるゆきの抵抗の声に顔を上げる。
次いで何者かがゆきに手錠をかける光景が映る。

長身の若い男、白い髪

この特徴を併せ持つ人物を自分は見たことがある。

「狡噛さん!」

ゆきの悲鳴が辺りに木霊する。
どう考えてもただ事ではない雰囲気に狡噛はどうにか起き上がろうとする。
だがそんな狡噛の意思に反して、その四肢に力が入る気配はない。

必死にもがく狡噛を眺めながら男はニッコリと笑う。

「君と語り明かしたいのは山々だが、今は具合が悪そうだね」

そう言って背を向ける男を狡噛は睨み付ける。
すると、その視線に気付いたのか男は思い出したような表情で再度此方を向くと、手錠を握っていない方の手である一点を差す
「その子は一度返すよ、大事に扱ってくれよ」

そこには固く目を瞑った名奈が倒れていた。




* * *




「気がついたか?」

目が覚めたとき狡噛は担架の上にいた。
沈んだ表情の宜野座が遠慮がちに問いかけてくる。
そんな彼の質問に狡噛は沈黙を返す。
真っ暗な空から少しずつ白い雪が降り注いでいる。
道理で寒い筈だと狡噛は思う。

「名奈は?」

寒さで冷えた体は妙に頭迄も冴えさせていく。
こんな状況でなければ衝動的に動いていただろうし、何より事実を受け入れることも出来なかっただろう。
それくらい名奈のことになると狡噛は自分への制御が利かなくなる。
それでもこうも冷静で居られるのは、追い続けてきた獲物をこの目で捕えた高揚が勝っているからか。

「救急車の中だ。念のため治療を受けている」
「そうか..」
「なぁ、狡噛..あの場に雨宮が居たということは、」
「ギノ」
「!」
「今はそれ以上言わないでくれないか。
受け入れる覚悟は出来てるが、出来ることなら聞きたくない」

宙を見つめながら呟く狡噛。
その表情から先の言葉が偽りではないことが察せられる。
哀しみも、怒りも、失望もない、波一つたたない水面のように真っ直ぐなその目は宜野座には逆に痛々しく見えて思わず目をそらした。







「あの男と会いました」
「あの男…?」

悔しげ唇を噛み何かを耐えている朱から呟きが零れる。

「槙島聖護――ドミネーターが効きません」







(お伽噺はさっき死んだみたい)



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