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「どうやら目が覚めたようだね」
『禾生、局長』

再度眠りから覚めた名奈。
すると彼女が寝ていたベッドの横に禾生が座っているのが視界に入る。
驚きのあまり瞠目するしかない名奈に禾生は意外そうな表情を浮かべる。

「どうやら全て思い出した訳ではないようだね」
『!』
「なに、驚くことはない。
君にもうあのリストバンドを付けるつもりはない。
直、脳がその状態に慣れれば記憶も自ずと甦る」
『何を言ってるんですか…?』

禾生の一言に名奈の周りの空気は一瞬で凍る。

地下空間で目を覚ました時に何故か記憶が戻っていたことは名奈と槙島しか知り得ないことだった。
それを何故局長が知っているのか。
見当のつかない恐怖に堪えるように名奈は掌を握りしめ禾生を見つめる。

「不思議に思うことかね?
局長である私が君の状態を把握してないとでも」
『ぁっ…』
「まぁ、今はその時ではない、
その話はまた次の機会だ。
それよりも雨宮君、君にはモンタージュを受けて貰いたくてここに来た」
『モンタージュ…』
「理由は言うまでもないな」
『それは、』

禾生の言っていることが理解出来てしまった名奈には黙る以外することがなかった。
要は槙島の情報を渡せと、そういうことなのである
昨日の件だけではない。
施設を出た後、まだ10にも満たない頃に出会った槙島聖護との記憶を見せろと…。


「行こうか、雨宮君」

煌々と光る白熱灯の光が目を覚ました時より、染みる気がして名奈は思わず目を瞑った。






*  *  *






自動ドアがスライドする音と共に足音がフロアの中に響く。
フロアに残っていた二人、縢と六合塚はその音の主を見ると各々の反応をする。

「もう、怪我は大丈夫なの?」
「これ以上入院させるなら病室に火をつけると医者を脅した」
「さっすが、コウちゃん」
「…ウソだよ、説得した」

狡噛は悪い冗談にのる縢を軽く諌めると、気になっていた事を二人に問う。

「それより常守監視官はどうなんだ?」
「医務室でメンタルケアのセッション中。でも志恩の診断では直ぐに持ち直すだろうって」
「可愛い顔して根性座ってるっていうか、正直ヒビったわ。
あれでサイコパスがレッドゾーンいかないってんだから」

縢はほんの少し忌々しさを含んだ声で呟く。
そんな軽口が気に喰わなかったのか狡噛は口調をキツくする。

「何かあったらどうするつもりだったんだ」
「心配してたのは貴方だけじゃないわ、でもね危険を冒しただけの成果は上がってるわよ」

そう言って六合塚はタブレットを操作する。
すると其処には今まで狡噛が追いかけ続けた男の子写真が上がっていた。

「これが…」
「槙島聖護。早速桜霜学園にも問い合わせたけれどビンゴ。
教職員も生徒も揃ってこの男が美術科講師の柴田幸盛だと証言している」

六合塚はその後も話続けるが、狡噛の耳にそれは入って来なかった。
只、目の前の男の写真を見つめる。

念願の相手があともう少しのところまで迫って来ているのだと考えると気持ちが落ち着かなかった。
様々な感情が交差する。
しかし今はその感情を破裂させる訳にはいかなかった。

耐えるように歯を食いしばり、ここまでの情報を得る為に動いてくれた常守に感謝の念を浮かべる。

「常守は……あいつはもう一端の刑事だ」

静かに呟いて常守の席を見つめる狡噛。
今は空席のそこに居るであろう人物には感謝してもしきれない

戻って来たらなんと言おうか、
そんな事を考えていた時−−

「あら狡噛クン、こんな所に居ていいの?」

思考を割く声が狡噛の耳に入った。
ふと、そちらを向くとそこには刑事課二係の青柳監視官が居た。

彼女の言葉の意味が理解出来ず首を傾げる狡噛に青柳は意外そうな顔をする。

「お宅の彼女、さっき局長に連れてかれてたわよ。
病み上がりなんでしょう、大丈夫なの?」
「なんで…」
「ん?」
「何処に向かってましたか?」
「多分…あの方向だと分析官のとこじゃない」

思わず狡噛は固まった。
何故、どうして、そんな事しか頭の中に浮かんでこなった。

この状況で唐之杜の所に向かう理由など分かり切る
槙島と一緒に行動していた名奈という情報源があるのだ。
朱より長い時間行動を共にしたとなれば得られる情報は多い。
そんな名奈にやる事など、一つしかないのだ。

「ちょっと狡噛クン!?」

青柳の驚愕の声を無視して狡噛は分析室へと走る。

嫌な予感しかしない。
何がなんでも止めなければ。
今度こそ自分は雨宮名奈という存在をこの手の中から失う。

そんな不安は狡噛の足元を這ってくるように付き纏う。
それを振り払うかの如く狡噛は只、ひたすら足を動かした。







(行くも戻るもいばらの隘路)
(後戻りは許されない)

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