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『ぅ……っ…』

重たい瞼に力を入れる。
差し込む光に思わず眼を細める

『………』

暫くしてここが何処なのか把握した名奈は小さく溜息をつく。
体を起こそうにも、どうにも重いのは瞼だけではないなしく、全く力が入らない。

まるで自分の体ではないみたいだった。


「よく考えて自分の足で戻っておいで」



『っ…助けて』




* * *




宜野座は局長から伝えられる事実に只、驚くしかなかった。

"免罪体質"という異質の存在。
現行犯であり証拠も揃っている、なのに犯罪係数が規定値に達しないレアなケース。

そのような言葉は聞いたこともなければ、存在を疑うことすらなかった。
シュビラは完璧なのだと、容認できぬイレギュラー要素など持たないのだと。

「藤間と槙島、二人の免罪体質者が揃って犯行に及んだからこそ、あの事件の捜査は難航を極めた。」
「藤間幸三郎はどうなったのです?」
「行方不明…と公式には発表されてる訳だが私もそれ以外のコメントをここで述べるつもりはない。ともあれ重要なのは、彼の犯罪による犠牲者が二度と再び現れることはなかったという事実のみだ」

禾生はそこで言葉を区切ると小さく息を吐き、宜野座と向き合う。

「彼はただ、消えたのだ。
シビュラシステムの盲点を暴くことも、その信頼性を揺るがすこともなく消えていなくなった」

トントンとルービックキューブを叩く無機質な音だけがその場を飾る。

「君たちはシステムの末端だ。そして人々は末端を通してのみシステムを認識し、理解する。よってシステムの信頼性とは、いかに末端が適性に厳格に機能しているかで判断される。
君たちがドミネーターを疑うならば、それはやがて全ての市民がこの社会の秩序を疑う発端にもなりかねない。
……分かるかね?」

含みをもった問い。
それは最早問いとはいわないのだろう。
その形を模っただけの理解の強制。
そして宜野座はそれを受け入れる。
彼には痛いほど理解出来ている、シュビラシステムが如何に重要で、崇高な存在なのかを…

「提出した報告書には不備があったようです。」
「結構だ、明朝までに再提出したまえ。当然君の部下たちにも納得いく説明を用意する必要があるだろうが」
「お任せ下さい」
「よろしい。宜野座君やはり君は私が見込んだとおりの人材だ
……そんな君にもう一つある事を教えておこう」

そう言って禾生は藤間のファイルをしまいもう一度タブレットを操作する。
暫くするとそこには、よく見覚えのある顔が浮かび、宜野座は思わず眼を見開く。

「これは…!」
「君達の身近にいるもう一人の免罪体質者の資料だ」
「まさか、そんな…。
彼女は潜在犯、執行官のです」
「名義上な。彼女を狗として繋いでおきたい上層部の思惑だよ」
「っ……!!」
「残念ながらこれ以上もノーコメントだがね」

衝撃的な事実を伝えられた宜野座は言葉も出ず、固まるしかなかった。

(未成年で執行官に就いている時点で色々可笑しいとかつてから思っていたが、そんな秘密があったとは…。)

「君のデバイスに資料を送っておく。読んだら即刻破棄するように」
「……」
「君と私と二人だけの秘密だ」


デバイスに届いた資料を眺めながら、宜野座は禾生のその重みのある言葉を心の中で噛み締める。
その資料に写る人物。
それは、"刑事課一係執行官"雨宮名奈に他ならなかった。




*  *  *




「常守が、モンタージュを…」
「そう、メモリースクープだよ
記憶にある視覚情報を脳波から直接読みとって映像化するっていう。朱ちゃん、あれで槙島聖護の姿を再現するつもりらしくて、今んとこ槙島って奴の顔をはっきり見たことがあるのは朱ちゃんだけだから」
「記憶の強制的な追意体験だぞ、よりにもよって目の前で友人を殺された経験を」

狡噛は只々憤りを覚えた。
あの時、病室から去るときのあの表情の意味を汲み取れなかった自分に。
常守朱は本気で槙島を追う覚悟をしていると気付けなかった自分に。

「分かってるよ!
だから皆も止めたんだ、幾ら朱ちゃんでもサイコパスが無事で済むはずがない」
「じゃ、なんで…」

思わず縢に噛み付く狡噛に、あくまで冷静を保ったまま縢は返す。

「次は絶対に仕留めるってさ、槙島を」
「っ…!」
「だとすれば、少なくともコウちゃんには彼女の事とやかくいう権利はないかも」
「くっ…」

縢の言う正論に狡噛は返す術がなく、ただ悔しげに歯を軋らせるしかなかった。






(苦いものは苦いまま)


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