code 33

刑事課フロアに朱と狡噛を除く五人が一様にモニターをみていた。

映っているのは白髪の老人。


「桜霜学園美術教師、柴田幸盛…ということになっているが実際は介護施設に収容されたまったく無関係な老人だった」
『彼の経歴だけが勝手に改竄されて教員に成り済ます上で利用されていたみたいですね』


その写真を見る視線には僅かに失望感が含まれていた。
名奈が決め手の一言を言うと更にその空気が濃くなる。

そんな中完璧にお手上げの態度を顕にした縢は机に肘をつく。

「完全な偽装経歴じゃないところが悪質かつ巧妙っすね」
「しかし教師なんて一目にふれる仕事就くとは、大胆なのか間抜けなのか」
「それがですね、映像データは全てクラッシュ。辛うじて残っていたのは、ほんの短い音声ファイルのみ。残された手段は昔ながらのモンタージュ写真と似顔絵作成だけ。
勿論、どちらもやってみました…」

六合塚が調べた手段も全て空振りだったらしく、口振りからそれを伺った名奈は小さくばれないように溜息をつく。

「結局佐々山の撮ったピンボケの写真しか手掛かりはないってか…」

征陸のその台詞を最後に皆が口をつぐむ。

名奈は目の前の画面に映し出される写真を見つめる。
そこから辛うじて読み取れるのは、男が今時珍しい白髪であるということ。
それだけである。
あとはピンボケしていて何も判断が出来なかった。

それでも名奈はこの男に似た人物をつい最近見た記憶があった。
金原を取り調べる前、居眠りをしていたあの時。
夢の中で自分はあの男と声を交わしていた気がする。



しかし名奈はそれを言うつもりはなかった。
確証のない事実は操作を混乱させるだけだし、何より宜野座はそういったことを嫌う。

(何で見覚えがあるんだろう?)


答えのない問いは只々己に還ってばかりだった。






(蒼茫と縹渺)
(掴めそうで掴めない靄)


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