code 25


「それにしても凄いですね、この資料の数」

そう言葉を洩らす朱の前にはファイリングされた沢山の資料が並んでいる。

「磁気媒体はあまり信用出来なくてな」

大事なものをオンラインに保存しておくことが出来ない狡噛は昔ながらの方法で情報を管理している。


長年かけて集めたであろう資料を眺めながら朱は感嘆の溜息をつく。

「凄い執念ですね」
「そんな事はない。これくらいは当たり前さ」

さらりと言ってのける狡噛に彼の本気を感じ取る朱。


ふと資料から顔をあげる。
するとそこにはデバイスを見つめながら小さく微笑んでいる狡噛の姿があった。
滅多に見ることのない純粋な笑み。

皮肉を含んだ笑み、
猟犬のような荒々しい笑み、
そのどれとも違った。

心の底からの優しい笑み。


朱には狡噛にこの表情を浮かべさせられる人物の心当たりは一人しかいなかった。


「なんだ?」
「名奈ちゃんですよね?」
「…よく分かったな」
「狡噛さんがそんな顔するの名奈ちゃんだけですもん」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ」

不服そうに顔を顰める狡噛。
そんな狡噛とは反対に彼の反応を見ながら朱はクスクスと笑う。

何が可笑しいのか分からない狡噛は朱を見据えた後、小さく溜息を吐き出す。


「狡噛さん、自分で思ってるよりも結構態度に出てますよ」
「そうかよ」

「ずっと気になってたんですけど、お二人はどうやって出会ったんですか?」


年の差もそれなりにある二人。
まして名奈に関してはつい数年前までは学生だった筈。
公安局の刑事と学生とではあまりにも接点がなさすぎる。

そんな中一体どうして今の経緯に至ったのかを朱は訊ねる。



「四年前に事件現場でな」
「…なかなか衝撃的ですね」
「まぁ色々あって公安局で保護することになったんだ」 
「色々って、何ですーー」
「それはまた今度の機会にな」


狡噛の声が朱の声を遮る。
呟くような大きさだったが、そこには断固とした拒絶の意思が含まれる。



「あいつの居ない前でペラペラと喋る訳にはいかないんだ」


その時の狡噛の顔は佐々山の話している時と全く同じで…
悔しげに寄せられる眉が朱の脳に印象的に残る。

そんな彼を見つめていると顔を上げた狡噛と視線が絡む。



「だけど、これだけは知っておいた方がいいだろう」


暫くの沈黙が流れる。
何もしてないのに空気だけが圧迫されているようで、
それは狡噛の話そうとしている事の重大さを物語っていた。




「名奈は人を殺したことがある」
「えっ…?」





(ありとあらゆるを溶いたあと)
(残るのは残酷な真実だけ)

[ 28/61 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -