code 20
モニター越しから覗く取り調べ室。
その中はいやに静かで唯一聞こえる音は金原が落ち着かず動くことでなる椅子の軋む音くらいである。
一方の宜野座は背筋を伸ばし何を発するでもなく視線を下に向けている。
どちらが追い詰められる獲物なのかは一目瞭然だった。
「人間に出来て動物に出来ない事は山程ある」
唐突に口を開く宜野座。
そのあまりにも色がなく抑揚のない声に金原は更に怯えた表情を見せる。
「その内の一つが安全制御だ」
「人間はどんな物にでも安全装置を付けてきた。
執行官にも監視官という安全装置が付いている」
徐々に大きくなる金原の貧乏人揺すり。
カタカタと次第に大きくなる音
「君が操ったドローンには特に厳重な装置が付いていたはずだ」
金原の額から流れ出た汗は雫となり机の上に落ちていく。
「絶対に安全だった筈のドローンに殺人行為を実行させたメモリーカード…
君は何処で入手した?」
宜野座の確信に迫る強い言葉に金原は勢いよく顔をあげる。
二人の様子を捉えた監視カメラのピントが静かに絞られた。
#
「八王子のドローン事件で金原が使ったセーフティキャンセラーと御堂のホログラフクラッキング、まぁどっちのソースコードもほんの断片しか回収出来なかったんだけど…」
刑事課フロアに全員が集まり唐之杜の考察を聞く。
ここ最近起きた二件について唐之杜が気になることが見つかったと宜野座に報告があったのだ
「明らかに類似点がある。
同じプログラマーが書いたって
線に、私は今日付けているブラジャーを賭けてもいい。」
「いらねーよ!」
決然とした表情でそう言い切る唐之杜。
見事な推理力が伺えるがそれも同時に言われた台詞に台無しにされている。
皆がスルーしようとする中敢えて突っ込んでいるのは縢の優しさであろう。
「御堂は確かにソーシャルネットのマニアではあったが、公共のホロに干渉出来るほど高度なハッキング技術は無かった」
『その点を考慮して金原の供述と合わせて考えると二人とも電脳犯罪のプロからバックアップを受けていたと考えられます』
宜野座の言葉に付け加えるように名奈は言い切るが実のところ確証は無かった。
目の前のパソコンを見つめながら密かに溜息をつく。
先程の金原の供述はハッキリ言って曖昧すぎだった。
【本当だ!ある日いきなり俺宛に郵送されて来た。
送り主の手紙には名前も無くてただあの工場に恨みがあるから一緒にメチャクチャにしてやろうって!】
身振り手振りをしながら必死に共犯者がいる事を伝えようとする金原。
しかしこの発言では何の参考にもならない。
「愉快犯、にしては悪質ですよね?」
「そもそも金原が殺人を犯すと送り主はどうして予測出来たんだ?」
「とっつぁんも職員の定期診断記録だけで金原に的を絞ったんだ。同じ真似を出来るヤツがいた。あの診断記録が部外秘だった訳じゃない。」
「じゃあそいつが御堂を手伝った動機は?」
宜野座が疑問の核ともいえる問いを狡噛に返す。
ここにいる誰もがそれを分からなくて悩んでいる。
「動機は金原と御堂にあった。
奴はきっとそれだけで充分だったんだ」
それなのに狡噛はあっさりとその問いに答える。
誰よりもこの犯人の心理を理解しているような言葉で。
「殺意と手段。本来揃うはずのなかった二つを組み合わせ新たに犯罪を創造する」
狡噛の顔に浮かぶ静かな怒り
暖かさなど微塵も感じないその表情が名奈を貫きぞくりと寒気が駆け抜けた。
「それが奴の目的だ」
そう言った狡噛は席を立つとそのままフロアから出て行ってしまった。
彼の様子をおかしく思ったのか狡噛の後を追って宜野座までもが出て行く。
二人が出て行ったのを見届けた名奈は溜息をつきながらデスクに顔を伏せた。
(ありえない…)
狡噛のあの表情と夢の中で一瞬見た男の表情が重なるなんて。
似ている筈がない。
顔の作りは全く違うし、狡噛は怒っていて夢の男は笑っていたのだ。
同じに見える筈がないのだ。
しかしたった一つだけ否定出来ない部分があった。
【それは君の−−】
【それが奴の目的だ】
たったそれだけのことが頭の中を埋め尽くす。
「どうしたの名奈ちゃん!?」
『あ、いえ、なんでもありません』
「そう?」
朱の心配した声に名奈はその考えを断ち切るように笑顔で答える。
すると朱は微妙な顔をしながらも仕事を再開してくれた。
『気のせいだよね』
言い聞かせるように呟いて拳を握る。
握った拳は力が入り過ぎて白くなっていた。
(目を逸らしたその先に)
(あるは光カ絶望カ)
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