code 12

「タリスマン・サルーンは相変わらず千客万来、葉山公彦の幽霊は今日ものうのうと人生相談に大忙しと…」
「逃げも隠れもしないどころかクラブ、エグゾゼの件ネタにしてる有様ですよ」

縢が呆れたように唐之杜に言葉を返す

「そもそも、こいつは何がしたいんだ。
葉山公彦が生きている様に見せかけるのが目的なのか?」

それは無い、と名奈は会話を眺めながら思った。
それなら、二ヶ月間銀行口座や外出記録を放ったらかしにするのは迂闊過ぎる。

本当にアバターを乗っ取るだけが目的なのか、
それとも何か作戦があっての行動なのか、名名奈は判断しかねていた。

「愉快犯と考えればあり得るがその為に殺人まで犯すか?」
「ギノ、犯罪者の心理を理解しようとするな。飲み込まれるぞ」
『!』

狡噛の発言に名奈は思わず肩を震わした。

今の言葉は明らかに狡噛自身の経験によるものだ
宜野座に忠告をするつもりだったのだろうが、狡噛が言うのでは含まれる"意味"の重さが違う

その言の葉はずっしりと心に響いてきた

「それは貴様自身に対する戒めか、狡噛?」

そんな狡噛の忠告も宜野座は鼻で笑いながら一蹴する

侮蔑と挑発が二人の間を行き来する
一瞬で張り詰めた空気に名奈は視線を彷徨わせる

宜野座は狡噛から忠告された事が気に食わないのか、いつもの何割増しかの辛辣な言葉をぶつけるし、狡噛は狡噛でそんな宜野座に挑発的な笑みをむける

昔はこんな事無かったのに狡噛が執行官になって以来変わってしまった二人の関係が名奈は直視出来なかった

『お二人共…』

そっとスーツの端を握りながら流れる空気に割って入った。

すると二人共名奈を一瞥し何かを察したのか、お互い顔を逸らす。

「奴は愉快犯だったとしても馬鹿じゃない、自分に嫌疑が掛かると予測していた。会場全員のホロコスをクラッキングするなんて、事前の準備がなけりゃ無理な相談だ。」
「こちらを舐めてかかっているなら思い知らせてやるまでだ。−−唐之杜、タリスマンのアクセスルートを追跡しろ。今度こそ身元を突き止めて抑える」
『え! ちょっと待って下さい
落ち着いて宜野座さん』
「口出しするな!」

一度落ち着いたかと思われた会話も直ぐにヒートアップし始める。
思わず口を挟んだら睨まれた

「当たるなギノ、名奈の言うとおりだ。奴は逆探知対策に鉄壁の自信を持ってる。
だからこそ今でも平然とソーシャルネットに出入りしてんだ」
「ここで手をこまねいてなんになる?」
「別の方法で奴の尻尾を掴めるかもしれない、まだ一つ気になる件がある」

そう言ったきり宜野座から顔をそらしてしまった狡噛も意見を曲げる素ぶりを見せない

「いいだろう、好きにしろ。
俺は俺で逆探知の線で進める」

最早これ以上は時間の無駄だと悟ったのか宜野座は溜息をつく

「そうさせてもらうさ」

無理やり話を誇示つけた空気が部屋に漂い誰もが口を閉ざす

そんな中、狡噛は一人分析室のドアを潜り部屋を出てってしまった。

『あ、狡噛さん!』

後を追って狡噛の半歩後ろに並ぶ。

そっと狡噛の顔を盗み見るが
全くの無表情。
一体何を考えているか見当もつかないのでは話しかけようが無かった。

廊下にコツコツと足音だけが響く
居た堪れない気持ちが出てくるが、あの部屋に残ることを考えればなんて事なかった

「すまなかったな」
『へ?』
「変な気を使わせてしまった」
『…』

思わず足が止まる

狡噛がそんな事を気にしていただなんて考えもしなかった

「あいつも悪気はなかった筈だ
エグゾゼの件が失敗して、ピリピリしてるだけさ」
『そうでしょうか?』
「頭が冷えればそのうち謝りにくるだろう」

狡噛の発言を聞いて名奈は安心していた。

宜野座が本気で怒っていた訳ではないからではない。
勿論それもあるが、何よりも狡噛と宜野座の関係が完全に変わってはいなかったからだ

『じゃあ辛抱強く待って見ます』

意外にも明るげな言葉が返ってきた事に狡噛は思わずそちらを向く
するとそこには名奈の微笑があった。

「あぁ、ところでお前この後何かやる事あるか?」

名奈の心からの笑顔は酷く珍しい。
楽しんでいても、喜んでいても必ず何処かに切なげな色を含んでいる、それが普段の名奈だ

『ありませんよ』
そんな名奈が珍しく笑っている
思いあたる事としてはさっきのギノとのことだ。

(ギノが怒ってないって知って安心したのか…)

自分の事より他人の事に一喜一憂するような感受性の高さは名奈だからこそか。

「さっきも言ったが気になることがある、少し手伝ってくれるか?」
『はい』

その感受性の高さは一種の病気に見えなくもないが今、最優先に気にすべきことではない

狡噛と名奈はフロアへの道を急いだ。



(変わらないでと願うこと)
(それはとても愚かなこと)

[ 15/61 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -