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「オフ会?」
「えぇ、普段ネット上のコミュフィールドに集まっているユーザー同士が、
皆でソーシャルネットでのアバターと同じホロコスを被ってパーティーをするんです」

やはりスプーキーブーギーのチャットルームに招かれていた朱は彼女に協力を持ちかけられたらしい。
曰く恩を売っておくのが目的らしいが…

「妙な事を思いつくもんだな」
「で、そのイベントには間違いなくタリスマンも参加するのか?」
「あれで欠席したらタリスマンの人気はガタ落ちです。
葉山公彦の代わりにタリスマンを演じているのが誰にせよあれだけ熱心にコミュフィールドの運営を続けてるんです。きっとオフ会にもタリスマンに成りすまして出てくる筈です。」

話を聞いているとスプーキーブーギーは随分と朱に協力的だと思う。
アナアキストとして名を轟かしているスプーキーブーギーらしからぬ行動に名奈は疑問を抱く。

『あの、凄くくだらない事かもしれないんですけど…』
「何だ?」
『スプーキーブーギーって確かアナアキストの異名を持つアバターですよね?』
「そうなのか、常守監視官?」
「えぇ。」
『じゃあ、どうして私達に協力してくれるんでしょうか?』

よりにもよって警察という大勢に味方する理由がスプーキーブーギーにはない筈だ。

「本音と建前だよ。」
『?』
「彼女どうやら私の同期みたいで、それも理由の一つらしいんだけど。」
『?』

朱の言っている事が理解出来ず思わず頭を捻る

「そんなに心配しなくても大丈夫、名奈ちゃん」

「何れにせよ、奴がどんなホロコスを被ってようと執行対象になるだけの犯罪係数を出来ればこっちのもんだ」
「で、場所は?」
「六本木のクラブ、エグゾゼです」

考えているうちにあれよこれよと話は進んでいく。
どうやら今は細かい事を気にしている余裕はなさそうだ


#


「表は宜野座達が、裏はドローンが固めている
あとはやつが現れるのを待つだけだ。」
「…しかしこいつは当世風の仮面舞踏会って趣か?」
『誰が誰だかわからない状況で狭い場所に押し込められてこの人達は不安じゃないんでしよわうか?』
「匿名性を怖がってたらソーシャルネットなんて出来ませんよ」

薄暗い室内
大音量でなる音楽
所狭しと存在するアバター達

こんな密閉空間に閉じ込められて平気でいられる彼らが信じられないのだ

『でもバーチャルじゃないですし、少しくらい不安を持っても…』
「全くだ、正気の沙汰とは思えんな」
「そんな考え方してるからサイコパスが濁るんですよ。」

無意識だろうか、朱にしてはデリカシーの無い発言に苦笑いがこぼれる。

それでも彼女の言ってることは正論だ
こうして話していると改めて自分が捻くれた考えの持ち主なのだと実感させられる。

「あ、あの、ごめんなさい。
そんなつもりじゃ…」
『いいですよ、全然気にしてないですから。』
「…!おい、奴だ」


征陸の言葉に空気が張り詰める


沢山のアバターが踊っているなか、タリスマンが悠然とフロアの中を歩いている。

「ここからじゃ狙えんな。他の客が邪魔だ」
「私が接近してみます」

そう言って朱は後ろ手にドミネーターを握る
監視官という仕事が板についてきたのかその表情も自然と引き締まっている。

『大丈夫でしょうか?』
「何か気になる事でもあるのかい、名奈ちゃん?」
『その…余りにもスムーズに話が進みすぎている気がして』
「「?」」

狡噛と征陸が不思議そうな顔をして名奈を振り向く

『だってタリスマンを演じている犯人は逆探知対策を講じているぐらいですよ。本当に何の策もなくオフ会に出向くでしょうか?』
「「……」」
『私にはそれがどうしても腑に落ちなくて−−−?』

突然静かになるフロア
何事かとそちらに顔を向けた瞬間…

ビーーーーーーーーーーーッ

『っ!』
「くっ!」

耳をつんざぐ様な音が鳴り響く

急いで耳を塞ぐがそれでも尚、破壊力を持って鼓膜を刺激し続ける。

思わず目を閉じる

それが犯人側の作戦の一つだと気付かずに…

音が鳴り止んだのを見計らって
視界を開くとそこには驚愕の光景が浮かんでいた。

『なっ!』

フロアに居た数々のアバター全てがタリスマンになっていたのだ。

「何だこりゃあ?」
「ホロコスへの同時ハッキングだ、本星が逃げるぞ」
「くそ、ドミネーターだ。犯罪係数で被疑者を探せ!」

狡噛と征陸の後についてフロアに上がりドミネーターを取り出す。
公安局だという客の言葉にたちまち三人の周りに大きな人の輪が出来あがる

慌てて逃げ出す者、
その場で抵抗をしようとするもの、

片っ端からドミネーターを向けていくが、大半が規定値をオーバーしている。
これではきりがない

『何人いるんですか!?』
「期せずして一斉摘発って訳か」

残ったタリスマンを追いかける狡噛に声をかける

『どうします、狡噛さん?』
「取り敢えずギノに連絡してくれ、残りは俺がやる」
『わかりました』

たちまちパニック状態へと化した会場
後ろで同じホロコスの被害にあった朱が見つかったらしいが、今は気にかけている余裕はなかった。

『もしもし、宜野座さん…』
「状況は大まかに把握している、お前たちは中の対応を頼む」
『!  わかりました』

慌しいフロア内を慎重に確認しながら進む。
もう暫くこの騒動は収まりそうになかった






この夜、スプーキーブーギーこと菅原祥子は消された。
タリスマンが消された要領と同じように…


(何処かであがる断末魔)
(それに気付くのはもう少し先の話)

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