code 18

コンコン

扉をノックするが部屋の主の返事が返ってくる事はない。
急ぎの用事を思いだして狡噛の部屋を訪ねたのだが、寝てしまったのだろうか…

『すみません、失礼します』
取り合えず資料だけでも置いて行こうとこっそりと部屋に入る

するとリビングはも抜けの空で誰も居なかった。

台所の電気が一つ付いている以外灯りは切られている
その様子からするに彼はあの部屋にいるのだろう。

小部屋の扉を叩こうと拳を上げるが思いとどまる
正直ここにいる時の彼の表情は苦手だ。

普段優しいあの瞳が曇るのだ
まるで底のない沼を見つめているかのように…

真っ黒に  光を映さずに

彼が何故ああなってしまったか心当たりがない訳ではない。

だからあの表情を見るとまるで自分が責められているみたいに感じるのだ。
勝手に罪悪感を感じて、その渦から抜けだせずにいる


ガタッ

『!』
部屋の中から響く音に思わず顔を上げる。
『狡噛さん!』

勢いよく扉を開ける
するとそこにはソファーの上で息をあげ瞳を見開いた狡噛の姿があった

『どうしたんですか?』
「……名奈」
『大丈夫ですか?』
「あぁ、すまない。心配かけたな」

そう言って狡噛は名奈の頭を撫でる。

狡噛は気付いていないだろうが
彼は何かはぐらかす時必ず頭を撫でる。

彼はいつだって手を伸ばして助けてくれるが、こちらが幾ら手を伸ばしても掴んではくれないのだ



徐に煙草を吸い始める狡噛

紫煙の輪が宙に浮かび、
薄っすら陰を残して消えていく
その煙の先にあるのは一枚の写真

狡噛ともう一人

確かあれは狡噛もまだ監視官だった頃のものだ


『佐々山さん…』
「……」
煙草の灰が重力に従って落ちていく。

『ごめんなさい』
「! 何故謝る?」
『佐々山さんを殺したのは私です』

あの時の背中が、そっと抱きしめながら大丈夫だと力強く笑った顔が思い出される
あれが自分の見た彼の最後だった。

次に彼を見た時、それはもう酷い有様だった
生きていた彼を見たのはおそらく自分が一番最後だ

だから余計悲しかった
彼を止められなかった自分を情けなくも思った。

それでもただ一つ、不思議なことに一番に感じるだろう感情が抱けなかった

「お前は悪くない、いつもそう言ってるだろう」
『…はい』
「そんなに苦しむならお前は捜査を辞めたって…」
『それは嫌です! お願いです
狡噛さん。私にもやらして下さい』
「……」
『あっ…』

名奈は反射的に口を抑える

『すいません、ついムキになって…』
「気にするな、怒っちゃいない」

吸いかけの煙草を消しながら狡噛は立ち上がる
そうして名奈の肘を掴み軽がると引っ張りあげる

「疲れてんだろ、部屋まで送ってくからしっかり休め」

その力の反動でそのまま名奈は狡噛の胸の中に納まる
彼の鼓動が近くに感じる

確か佐々山との最後もこんなだった気がした
思わずあの時感じ得なかった感情の名が脳裏をチラつく

『はい。』

罪悪感の根源のその名が…

(それは"憎悪")
(それは愛情と同義で)
(誰かを愛していたという証)

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