code 30


真っ白な空間
音も影もなく、感じるのは己の存在だけ
果てしなく続く"白"


気付いたら何故か此処にいた。
自分は先程まで王陵璃華子と対峙していた筈なのに。

とにかく此処が何処なのか判断する為に足を踏み出す。
一刻も早く皆の所に戻らなければ…



しかしいくら歩いても進んでいる感覚が無い。



前後
左右
上下



真っ白なこの空間ではそれらが一切存在しない。
自分の立っている場所が判断出来ないのだ。

「!」

すると突然目の前に自分とそっくりな人間が浮き上がる。
いや、そっくりでは語弊があった。

これは完全に自分だ。



「                         」
『! 待って、何て言ってるか聞こえない』


目の前の自分は意味ない言葉を発し続ける。

徐々に形を成してきたかと思えば今度は自分の意識が薄れ始める。

(そんな、なにも分からないのに)



#

『〜!』

今までで最悪の目覚め。
息は上がっているが、体温は下がりきっていた。

『何なんだろう…?』

誰に問う訳でもない疑問が口から零れる。


lelelele…

『!』

リストバンドのコール音が混沌としている名奈の思考を切り裂く。
急いで電話にでる。
朱からだった。

「あ、名奈ちゃん! 目が覚めたんだ。」
『はい、あの私…』
「あの後倒れちゃって、そのまま保健室に運んだんだ。」
『そうなんですか』

またやってしまった。
迷惑を掛けまいと行動した結果がコレだ。
自分に嫌気が差してくる。

「それでね、起きた途端に悪いんだけど寮裏のゴミ収集所に来てくれるかな。
…新しい犠牲者が出ちゃって」
『…分かりました、すぐに行きます』

手遅れだったらしい。
王陵璃華子は逃げた。
この事件も何れ標本事件のように迷宮入り扱いされるのだろう。

急いで脱がされていた上着を着て保健室を出る。
名奈は只々足を動かし続ける

収集所に近づくにつれて女の子の泣き声が大きくなってくる。

そこに辿り着いたとき名奈は思わず目を瞑った。雨の所為か…
温かい何かが頬を伝ったのが鮮明に感じられた。



* * *



闇夜に二人の男の声が木霊する。
その声の持ち主は槙島聖護とチェ・グソン。

「ちょっと情報を集めて欲しい。
昼間学校に来ていた公安局のおそらくは執行官、狡噛と言うそうだ。」
「そりゃまた妙な奴に目をつけましたね」

槙島はゆるりと笑う。

「あぁ、あの洞察力と理解力、とても興味深い。きっと楽しませてくれるんじゃないかな」
「分かりましたよ、貴方の頼みなら引き受けない訳にはいきませんから。」

そう言って立ち去ろうとするチェ・グソンに再度声がかかる。

「そうだ、もう一人大事な子を忘れていた」

先程とは違う喜色を帯びた槙島にチェ・グソンは不思議な顔をする。

「雨宮名奈といってね、彼女も公安局の執行官だ」
「… その女は何か貴方のお眼鏡にかかる事を?」
「いや、ただ久しぶりに昔のオモチャで遊んでみるのも悪くないかないと思ってね」

その台詞をはく悪魔のような目はまるで…





(暗闇より這いよる混沌)

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