code 28


『そうですか…』
「えぇ、ごめんなさいね。力になれそうになくて」
『いえ、気にしないで下さい』

名奈は校内の増減築の事について地図に書き漏れがないか職員に聞き回っていた。

彼らなら何か知ってるかもしれないという一縷の望みにかけたのだ。しかしこれといった収穫は無い。
結局は空回りに終わってしまい思わずため息をこぼしえない。


『今いる職員はこれで全員でしょうか?』
「そうよ、多分皆いるはず…
あら、柴田先生がいらっしゃらないわね」
『柴田先生?』
「ほら、あそこの席」

少し背伸びをして向こう側を覗く。
確かにそこには誰も居ない無人の席が一つあった。

『あの柴田先生は今どちらにいるか心当たりはありますか?』
「多分美術室だと思うわよ。
王陵さんとよくいらっしゃるもの」


(美術室…)


名奈は地図を開く。
美術室の位置を確認するとどうやら職員室と違う階にあった。

走ったとしても数分はかかるし階段が幾つもあるこの学校ではすれ違う可能性が高い。
名奈は念のため言付けを頼んでおく。


『すいません、もし柴田先生が戻って来たら公安局の雨宮が話があるとお伝え下さい』
「わかったわ。」
『ではお願いします』

名奈は職員室を出て美術室に向かう。

ーもしかしたら何か重要な情報が得られるかもしれないー

そう思うと自然と足は早く動いた。






「あら、柴田先生戻って来たんですか?」
「?」
「さっき柴田先生にお話を聞きたいって美術室に向かってった刑事さんがいたのよ」
「刑事ですか…」
「そうお名前は確か、雨宮さん」


「!」

男はその名に目を見開く。
しかしその表情は次第に喜色に染まっていく。


「その方、特徴とかは?」
「そうね…珍しい髪の色をしていたわ。藍色の様な澄んだ黒髪で、」

刑事さんには見えなかったわねと言いながら教頭は去って行った。



男は思わず口元を抑える。
何という偶然だろうか、いや、必然か…

あの事件以来姿を消していた存在がひょっこり現れたのだ。
お気に入りだった玩具でまた遊べる、そう考えると自然と男の心は躍った。


「名奈…」


まるで愛おしい人を呼ぶ様に呟かれた声は異常なまでの甘さと狂気で染まっていた。



* * *




(嫌な空気だな…)

廊下を普通に歩いてるだけで好奇の目を向けられる。
この学校の異種異物に対する警戒の強さに名奈は眉を顰める。


黙って進んで行くとようやく美術室の札が見えた。



『失礼します、柴田先生はいらっしゃるでしょうか?』

扉を開けながらそう声をかけると中には1人の女子生徒がいた。


真っ白の肌に黒い髪はよく映えている。
服の上からでも分かるスタイルの良さは、まさに神様の産物としか言い様がなかった。

あまりの人間離れした美しさに名奈は暫くの間固まった。


「柴田先生ならさっき職員室に戻って行かれましたよ」
『!そうですか』
「何か御用が?」
『はい、仕事の都合上詳しくは話せないんですけど…』


もう一度職員室に戻ろうかと顔を上げると必然的に女子生徒と目が合う。

「お仕事ってもしかして刑事さん?」
『え、えぇ…』





「……へぇ、そう」

途端女子生徒からの視線が変わる。
只の興味からくる視線ではなく全身を舐める様なまとわりつく視線。


身体中を走るヒヤリとした感覚
名奈の背中に冷や汗が流れる。

唾を飲み込む事でその違和感ごと消し去ろうとしたが、以前感覚は消えなかった。


その視線に耐えられなくなった名奈はその場凌ぎの話題でこの状況を打破しようとした。

『ここにある絵、全部貴方が書いたんですか?』
「勿論、時間があるなら是非ご覧になって」
『……』

渋々絵に近付いく名奈。



ビーッ ビーッ
ビーッ ビーッ



『!』

リストバンドが赤く光りながらつんざぐ様な音を出す。
このアラートが鳴るということは近くに潜在犯がいるという事

そしてこの部屋に居るのは自分ともう一人…
あの女子生徒だけだ。

反射的に上を向く。


「刑事さんが素材だなんてなかなか面白いわよね」


するとそこにはスタンガンを此方に向ける王陵璃華子の姿があった。

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