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「で、一体何事だ?」
「ホームセキュリティの一斉点検でこの部屋のトイレが二ヶ月前から故障していたことが分かった」
『なのに住民からの苦情が一切ないのを不思議に思い通報してきたらしいです』
「そういう事だ」

宜野座の説明に後付けするように資料を読むとどうやら狡噛も納得してくれたようだ。

資料に写る男の名前は葉山君彦
32歳 独身そして今時珍しい無職

シュビラシステムが全てを決めてくれるこの時代、それに従わず己のやりたい事をやる存在はかなり稀有だ。

「でもお金は? 無職じゃお金なんてないですよね。」
「口座を洗って見たら、こいつはアフィレータープロバイダーから多額の報酬を受け取っている。暮らしには何一つ不自由無かっただろう」
「へぇ、ネットの人気者ってだけでがっぽり稼げるんなら、そりゃ外に出て働くのも馬鹿らしくなるわ、ねぇ名奈ちゃん?」
「まぁ、一理あると思います」

縢の皮肉気味な言葉に名奈は苦笑いを浮かべながら彼の心情を察する。
下手したら、外に出て働いてる自分たちより裕福だったかもしれない。そう考えると若干の不服感は否めないのは仕方のない事だ。

「何処かで長期の旅行中とか?」
朱が失踪以外の可能性を上げるがそれはないだろうと思う

「無いな、部屋の外に出れば街頭のスキャナに記録が残る。
この町でなんの痕跡も残さず遠出をするのは至難の技だ
そもそも口座からの引き出しも二ヶ月間途絶えている」

明らかに不自然な点が多すぎる
二ヶ月前から途絶えた生活感、
行われていない口座の引き出し
そして出掛けた痕跡も残っていない。となると残された可能性は…
「死んでるな、葉山は」
「だね、殺されるほうが消えるより簡単。」
「結論を出すのが早いぞ」

宜野座が狡噛と縢をたしなめるしかし二人の言っている事に名奈も同感だった。
これだけの状況が揃っていながら殺されていないという方が不思議だと思う。

「名奈、この部屋の内装ホロ再起動できるか?」
『ちょっと待って下さい、今やってみます』

狡噛に言われた通り内装を再起動する。一見普通の部屋だが、一箇所だけおかしな場所を見つける。

「あれ、これは…」
朱も何かおかしいと感じたのか思わず声を漏らしている

ホログラムの椅子と実際の椅子の位置がズレているのだ。
触ってみようとするがやはりすり抜けてしまう。

ホログラムの椅子には座れない、だから普通はホログラムと本物の位置を同期させるのだ。なのにこの椅子はズレてしまってる

一体どうしてこんな事になっているのだろう?

「そこの長椅子本当はこの位置にあった筈だ。そしてそれを誰かが動かした。」
「なるほどね」
『退かしてみますか、狡噛さん?』
「あぁ、やってみよう。
縢、手伝ってくれ」

そう言って狡噛と縢は長椅子を
向こうの部屋に運んでいく。
すると椅子のあった床には小さな傷がついていた。
思わず五人ともその傷跡を覗き込む

「こいつを隠したかったんだろうな」
「こんな小さな傷がどうした?」
「鑑識ドローンにスキャンさせろ」
納得のいかない顔をする宜野座を放置して狡噛は部屋の壁を触り始める。
謎の行動に名奈も他の面々も驚きを隠せない

「やっぱりだ、テープの痕だな」

この部屋で起きた事をいち早く理解した狡噛は予想通りといった顔をして四人に説明を始める。

「この部屋の中から葉山公彦を影も遺さず消しちまった手品の種さ」
『え、もう分かったんですか』
「あぁ、まずは絞殺か毒殺、電気ショックの心臓麻痺でもいい
出血のない方法で犠牲者を殺しそれから部屋にビニールシートを敷いて遺体を細切れに分解する。風呂やトイレの排水口から流せる程度にまで粉々に…」
「うっ…」
思わず口元を抑える
想像するだけでもかなり残虐な殺し方をされている

「恐らく殺す段階で抵抗されたんだろう。床に傷が残りそれからビニールシートを固定したときの痕も残しちまった
度胸と根性はあるが素人の殺しだな」
「まさか…」
狡噛の驚きの推理に宜野座は信じられないといった表情を浮かべる。

「征陸のとっつぁんならこの程度、部屋に踏み込んだ途端に嗅ぎつけるぜ。
ギノ 猟犬の嗅覚を舐めるなよ」

呆れ気味な狡噛その言葉に何を思ったのか宜野座は目を細める。

「下水管の血液反応をチェックしてみろ、話はそれからだ。」
「分かった」
何処か不機嫌な感じを漂わせながら歩いていく宜野座を名奈は見つめる。
彼は音も立てずに部屋を出てってしまった。

『今のは流石に言い過ぎでは! 宜野座さん怒ってますよ』
「気にするな、たまにはあれくらい言ったって問題ないさ」

そう言って頭を撫でる狡噛に名奈は何も言えずに下を向く

「そこで仲良くしてるお二人さん、開いたよ」
「!」
「そうか」

からかいの言葉をかけてくる縢を名奈は睥睨するが狡噛は何事も無いようにパソコンを覗いてる。

ムキになっている自分が馬鹿らしい。
取り敢えず縢の事は後にし、
パソコンを見ると不気味な顔をしたアバターが写っていた

「葉山がネットで使っていたアバターは… こいつか」
「アフィリエイトで食っていけるんだから相当な人気者だったんでしょうね」
「タリスマン…」
『え、朱ちゃん知ってるんですか?』
「私、今朝このアバターと会ってます」

以前として画面はタリスマンの笑みに支配されていた。



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