code 3
薄暗くネオンが光る中を狡噛と名奈は歩く
雨も少し止み始めたのか粒がまばらになっている
時折人が集まっている店を見かけるが、そこで聞こえるのは怪しげに声を潜めた話し声だけ
挙句の果てには怪しげな薬までやり取りされている。
ドミネーターを向ければ一発でセーフティが解除されるだろう
そんな光景に目をやりながら、名奈は狡噛に話しかける
「常守監視官は大丈夫でしょうか?」
「……それはどう言う意味で?」
「彼女は私達を普通の人間として接しているように感じて…」
名奈からしてみれば宜野座の態度のほうが監視官としては正しいと思う
先程顔をあわせた時、朱は目を丸くして驚いていた
大方、自分が執行官には見えなかったのだろう。そんな事は百も承知している。
己の容姿、言動、どれ一つとっても執行官らしさは感じられないだろう。
むしろ公安局に勤めている事自体不思議に思われるかもしれない
それでも己の中に獣の血が流れているのもまた事実である
彼女はその事を理解しているのだろうか
「きっと常守監視官はこの仕事は理不尽だと思うかもしれませんね」
「………。」
「彼女の資料読みました?
訓練所を主席で卒業するなんてホントに凄いですよね。」
「あぁ。 だが現場ではあそこの常識は通用しない」
あくまで訓練所で習う事はセオリーなのだ。彼女にとって理不尽極まりないだろう
失敗しないために一生懸命勉強したのにそれが仕事をやり遂げるための欠片にもなり得ないなど悪い冗談の他に何がある
しかしここで必要なのはそんなものではない。本当に必要なのは…
「彼女、覚悟できますかね?」
「さァな、だがそれが出来ないのならここではやっていけないさ。」
狡噛は前を警戒したままそう言う。
狡噛の核心をつく言葉に名奈は不安になる。
-自分にはその覚悟はあるのだろうか-
そう思い彼にそれを問おうとすると…
『こちらハウンド4、KTビル四階でターゲットを発見。どうします?』
『よし、そのまま目を話すな。
ハウンド2と俺が包囲する』
どうやら縢が対象を発見したらい。名奈は急いで宜野座と縢の会話に耳を傾ける
『うぅん、でも奴さんのテンパり具合だと人質の子は限界ぽいっすよ。俺一人で確保、行っちゃいます?』
『よし、しくじるなよ』
『了解』
縢は宜野座たちの応援を受ける前にどうにかして対象を確保するらしい
「もう今日は終わりですかね」
「そうだな、奴が余計な事をしていなければだが…」
「え、それってどういう意味…」
そう言いかけたところで名奈は宜野座が捜査開始前に言っていたことを思い出す
〈不適合薬物に手を出した可能性もある〉
「まさか、薬物を…」
突然通信機から鋭い声が聞こえる。
『縢、何をしている
』
『パラライザーが効かない。
野郎、興奮剤か何かきめてやがる』
どうやら結果は悪いほうに転んだようだ
上から聞こえる征陸の
声がそれを裏付けしていく
「シュビラシステムのご託宣だ大倉信夫はもう、この世に必要のない人間なんだとさ」
それは所謂、死刑判決
セラピーによる更生の余地無しとされてしまったのだ
狡噛はそれを聞いて走り出す
おそらく対象の所へ向かうのだ
名奈も一瞬遅れてその後を追う
しかし狡噛の脚は速く、いくら名奈が頑張っても追いつけそうにない
「待って下さい、狡噛さん」
名奈は暗闇の中へと急いて脚を進める
その先に後味の悪い結末が待つことを知らずに…
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