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冷たい空気が身体に纏わり付く
思わず震える身体を抑えながら現場の周りを見る

(随分賑やかだな…)

公安局がわざわざ廃棄区画にまで出向いたのだ、野次馬が集まるの必然だろう
そもそも、潜在犯と思われる対象がドローンから逃げ出さなければこんな事にはならなかったのだ。

まして、逃げ出した場所はネオンライトだけが薄暗く光る区画
逃げこむ場所としては最適だが追う立場の者としては最悪だ

宜野座と共に一足先に現場に赴いた名奈は野次馬の多さに顔を顰める。
「多いですね、野次馬」
「気にするな、行くぞ」
宜野座はそんなことはどうでもいいらしく人混みを掻き分けて歩いて行く。仕方なく名奈もそれに続いてゆく

「そういえば今日から新しい監視官が来るんですよね?」
「そうだ。」
「配属されていきなり事件ってなんか可哀想ですね」
「そんなことは言ってられないしっかりと働いて貰うさ」

そう言いながら宜野座は資料に目を通していく
自分が執行官だからなのだろうか、基本宜野座は顔を見て話をしない

こういった所が新任の監視官に嫌われなければいいのだが…
そんなことを思いながら名奈も資料に目を通した

#

「あの、監視官の宜野座さんでしょうか?」

後ろから宜野座を呼ぶ声がする

「俺だ。配属早々に事件とは災難だったな」
冷徹そうな雰囲気に思わず彼女も背筋を伸ばしている

「本日付けで刑事課に配属になりました、常守 朱です。どうぞよろしくお願いしま…
「悪いが刑事課の人手不足は深刻でね、新米扱いはしていられない」

自己紹介を遮られた上にいきなりのスパルタな発言に朱は困った顔をする

「あの、常守監視官…」

そっと声をかけると必要以上に驚かれた
宜野座との微妙なファーストコンタクトですっかり自分の存在は失念されていたらしい

「あ、始めまして。常守朱といいます、以後よろしくお願いします」
「そんな……  私のような執行官に常守監視官が丁寧な挨拶をする必要ないですよ。貴方は私の上司にあたるんですから」
「え… 執行官なんですか?」
「はい、執行官の雨宮名奈です」

驚いているのだろう
自分を執行官だとは思えないのだろう。
犯罪係数が逸脱していそうな要素が何処にも見当たらないとはよく言われる台詞だ。
しかし…
(そこまで驚く事なのかな)

ポカンと名奈を見つめる朱に、名奈も不思議そうな顔を向ける
お互いがお互いを見つめている。
すると、おかしな雰囲気に宜野座の鋭い声が割ってはいる

「自己紹介は終わったか?」

その声に二人とも意識を取り戻し慌てて資料を見始める。
宜野座は小さく溜息をつくと
対象の情報を読み上げる

「対象は大倉信夫。
街頭スキャナーで色相チェックに引っかかり、セキュリティドローンがセラピーを要求したが拒絶して逃亡。
記録したサイコパスはフォレストグリーン、高い攻撃性と脅迫
観念が予想される」

"フォレストグリーン"
色相判定の結果としてはかなり悪い
資料に写る写真はいかにも善良そうな顔
しかし何もしてない人でも一度サイコパスが濁れば即、潜在犯扱いである

「そんなに色相が濁るまで治療を受けなかったなんて…」
「不適合薬物に手を出した可能性もある。何にせよシュビラ判定を待つまでもない潜在犯だ」
そう言って宜野座は資料を畳む
そして大倉が逃げ込んだ区画を見る
それにつられて名奈も顔を上げる

「でも、厄介なことになりましたよね。
大倉が逃げ込んだこの区画って廃棄区画だから中継機が無くってドローンが侵入出来ないですし、それに…」
「え、まだ何かあるんですか?雨宮さん」

名奈は気まずそうな顔をして答えを渋る。
変わりに宜野座が答えた
「逃亡の途中で大倉は通行人を拉致して人質にしているらしい」
その答えに朱は一瞬で顔色を変える
「人質が!」

目撃者の証言によれば人質にされたのは若い女性。
身元の確認もまだ取れていないらしい

不安要素が段々と増えるのに比例して朱の顔色が更に悪くなっていく

「住民の退去は?」
「登録上は無人区画だが、おかげで浮浪者の巣窟だ。
覚悟しておけ」
そう言って宜野座は朱に監視官の証であるジャケットを放り投げる
慌ててジャケットを受け取る朱を放置して宜野座は名奈に話しかける。
「お前も潜在犯に関しては重々注意しておけ。
……絶対に感化されるなよ」
「! はい、よくわかってます」

その物言いに名奈は若干思うところはあるものの自分の症状は自分が一番理解している
こればかりは自分自身で気を付けるしかないのだから…

「護送車…」
朱の声に思わず顔を振り向かせる
そこには確かに黒塗りされた厳つい車が来ていた。
思わず護送車のほうに体が向く。
足を進めようとした時、後ろから宜野座の声が聞こえた

「これから会う連中を同じ人間と思うな。やつらはサイコパスの犯罪係数が規定値を超えた人格破綻者だ。
本来ならば潜在犯として隔離されるべきところを、ただ一つ許可された社会活動として、同じ犯罪者を駆り立てる役目を与えられた」

そう、自分達はその役目無しでは社会に出回る事が出来ない飼われた犬
いわば猟犬、獣を狩るための獣なのである
それが彼女、常守 朱が預かる部下なのだ
願わくばこの仕事が彼女にとって苦にならぬよう、名奈はそう思うしかなかった


(さぁ、猟犬たちとのご対面だ)


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