code 56
『狡噛さん、コーヒー飲みます?』
控えめな声がキッチンの方から聞こえてきて、俺は読んでる本に耽ったまま、生返事を返す。
そういえば、こんなやり取りも久し振りだったなと思い暖かい気持ちになった。
『どうぞ』
「あぁ、すまない」
口にすればこいつが入れたんだってすぐに分かる俺好みの味が妙に懐かしく感じる。
名奈、と声を描けようとして振り向いた途端、驚きでコップが手から滑り落ちる。
そこにいた、薄ら笑いを浮かべる槙島の姿に。
はっと目が覚めて思わず辺りを見回す。
あるのは飲みかけの冷めたコーヒーと、読みかけで伏せてある本とその他諸々。
「...誰だ」
突如けたたましく鳴り響くコール音に首を傾げる。
こんな夜中に連絡をしてくる相手に狡噛は心当たりがない。
(夜分遅くに失礼する、狡噛慎也の番号で間違いなかったかな?)
聞き覚えのあるその声に驚愕する。
(今日、シビュラシステムの正体を知ったよ。あれは君が命がけで守るほど価値のあるものではない。それだけを伝えておきたくて。あと確認だが名奈がそこに居たりはしないかな)
「...何だとっ!」
(その様子だといないようだね、ありがとう。では、またいずれ)
一方的に切れた通話に呆気に取られてると、立て続けるように宜野座から連絡がはいる。
「おい、ギノ何があった!」
問い詰めた通話口の向こうからは、どこか苦い色を含んだ声が帰ってくる。
「槙島を乗せた輸送機が墜落した」
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