code 53


戦いは時間が経つにつれて槙島が優勢になっていった。
狡噛が攻撃をしかけるも槙島はそれをいなした上で更に攻撃を仕掛ける。

「シュビラシステムの正体が知りたくないのか」
「そんなものは後回しでいいんだよ!」
「ふっ、そんなものか。なら名奈のことも同様にというわけか」
「っ…何でここで彼奴が出てくる」
「やはり君は本当にあの子のことを何も知らないんだな」

せせら笑いをした槙島は向かってくる狡噛の下に潜りそのまま床に叩きつける。
上から押さえつける槙島の顔にいつもの澄ましている笑みではなく、ギラギラとした獣のような笑みが浮かぶ。

「あの子の過去を知らない、まして知ろうとしない君にあの子の隣に立つ資格はない」
「余計なお世話だ、少なくとも彼奴はそれを俺に望んでいないんだよ!」
「望んでない、 ね」

含みをもった言葉とともに槙島の顔から一瞬狂気の色が抜ける。
哀しむような、それでいて自嘲するような表情に狡噛は気を取られる。
そうして僅かに緩んだ力が組み合っていた均衡を崩す。

「が…ぁ…」

蹴りあげられた頭から皮膚を破って血が流れ出してくる。

「思っていたより拍子抜けの結末だが、それでも久々に退屈を忘れた。感謝してるよ」

剃刀が鈍く光って狡噛の命を刈り取ろうとする。
そのとき---

「ああああッ!」

絶叫しながら突っ込んできた朱の手にあったヘルメットが槙島の側等部に当たる。
声もなく倒れた槙島を一瞥して朱はすぐに狡噛にかけよる。

「監視官...殺せ」

そう、小さく呟かれた単語に反射的に目を開く。
しかしその意をくみとった朱はすぐに槙島の横へと膝をつく。
ヘルメットを高く持ち上げる。同時にゆきのことが脳裏をよぎる。


泣きながら殺されたゆき、カフェで笑い合っていたゆき。
そんな全てをまるで意にも介していないような目で、動きで、ゆきを手にかけた槙島がちらつく。


殺してやる、本気でそう思って歯を食いしばる。しかし、

「常守監視官は、」

言葉がよぎる。
何気ない日のなかで言われた、それでも自分を支えてくれている一つが。
あの日かかげた正義はなんだったか。
彼女が正しいと言ってくれた正義はなんだったか。

常守監視官は正しいと、少なくとも私はそう思ってます

ヘルメットが落ちる。
代わりに朱は胸元から手錠を取り出す。

「槙島聖護、あなたを...逮捕します」




* * *




『...何を、してるんですか』

シュビラシステムの中枢、地下二十階まで降りて行って目にしたのは壮絶な光景だった。
ヘルメットを被った男たちが入口へと続く道に折り重なるように倒れていて、その先の扉の中には真っ赤な血が広がっていた。
そしてぎこちない動きで足を引きずる禾生壌宗の皮がはがれたドローン。
思わず顔を顰める。

「おや、帰ってきたのか」
『......』
「可愛い子には旅をさせろと、昔はいったみたいだが少し長旅すぎたかな」
『何を...』
「ん?」
『何をしていたか聞いているんです!』

胸倉を掴むだなんてそんな生易しいことは出来なかった。
首をへし折る勢いで手をまわして問い詰める。
それでも禾生は余裕の笑みをこぼすばかりで更に手に力が入った。

「君がそうして怒りを顕わにするのはいつぶりかね」
『...質問に答えて』
「その様子だとあの野蛮な人格は消えたのかな。全くどうせなら不要な感情ごと消えてくれれば良かったものを、名奈に余計な感情まで与えて。番犬代わりになるかと思って放置していたが失敗だったかな」
『答えて下さい、首をへし折りますよ』
「......聖護くんのお友達と執行官を一人処分したよ。ここは凡人が踏み込んでいい領域ではない、まして執行官なんて」

ミシリと機械が歪む音がする。

「社会の害である彼らに我々の正体が露見するのは好ましくない」

喉がカラカラに渇いて声が出なくなる。

「何て言ったかな、"縢秀生"だったっけ。彼が今後社会の為に成すことと真実の重みを比べれば一目瞭然、」
『わかりました』

饒舌に語る口を押さえつける。
怪訝な色を浮かべていた禾生のかおが徐々に驚愕に染まっていく。

『人間が神様の失敗作なのか、神様が人間の失敗作なのか、そんな言葉がありますけど』
「...っ」
『貴方たちを見てると、神様のほうが失敗作だと感じます』
「...待てっ、シュビラを、この世界を敵にまわすつもりか?」
『はい、そのつもりです。でも気を付けた方がいいですよ、人間そこまで甘くないですから』

首は思っていたよりも簡単に折れた。




* * *




事態がなんとか収束の兆しをみせ、漸く朱はノナタワー入り口まで戻ってきた。
ふと乗ってきた車に目をやると、いつの間に出来たのか窓ガラスに穴が開いていた。
しかも外側から無理矢理、破壊した形跡のあるかたちで。不審に思い駆け寄ってドアを開ける。

「メモリーカード?」

助手席の真ん中に置いてあるそれを手に取る。
何となくこのメモリを置いていった人物に心当たりがあった。

「名奈ちゃん?」






(ここにいた証)

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