1人で居るとき、ルーシィはカウンターに座ることが多い。ハッピーがシャルルに話しかけ始めて手持ち無沙汰になると、ナツは目に飛び込んできた金髪に悪戯を思いついて、足音を殺して近付いた。
無防備なその背中に、人差し指を滑らせる。

「うりゃ」
「きゃあ!?」
「かかか、驚いてやんのー」

本に夢中だったルーシィは、ナツの気配に全く気付いていなかった。振り向いた瞳は軽く潤んでいて、その頗る良い反応にナツは嬉しくなって口角を上げた。

「面白ぇなぁ、ルーシィは」
「遊ばないでよ!」

それは無理と言うものだった。ナツのほんの少しの挙動に、泣いたり怒ったり笑ったり、表情がころころと変わる。こんなからかいがいのある人物、そうそういない。
ナツは隣に座ると、ルーシィのスツールを彼女ごと回転させて、その華奢な背中にもう一度人差し指を乗せた。

「わ、何!?」
「何書いたか当ててみ」
「え、ちょっ」
「もっかい始めからな」

すすす、と滑らせると所々何かに当たる。書きにくさにそれを避けて、ナツは左から右へと綴った。

「ぅ」
「何だ?何か言わなかったか?」
「く、くすぐったい…」

捩りそうな身体をこのまま擽るのも面白そうだったが、とりあえずそれは後だ、と思い直した。ナツはもう一度ゆっくり始めから書いて、ぷるぷると耐えているルーシィを後ろから覗き込んだ。

「アルファベット5文字で、ルーシィの好きな物だぞ」
「ぅ、う?んー…HEART、ハート?」
「ブブー、正解はBEAST。獣」
「なんでそんなもんがあたしの好きな物なのよ!?」

眉を吊り上げて怒ったって、何も怖くない。むしろ予想通りの反応にナツを喜ばせるだけだった。
食って掛かるルーシィを笑って流していると、カウンター内からミラジェーンが手を伸ばしてきた。

「違うわよね、ルーシィが好きな5文字って言ったら、これよね?」

彼女はくすりと笑って、きょとんとするルーシィの右手を掴んだ。ナツに人差し指でぴ、と指示する。

「はい、ナツ。あっち向いて」
「うん?」

素直に逆側を向くと、背中にルーシィのと思われる指が走る感覚がする。むず痒さに自然と背筋が伸びた。
ナツの心臓が、理由のわからない衝撃を伝えてくる。

ルーシィの、指。

ミラジェーンに主導権の握られた文字は、淀みなくナツの背中を滑っていく。

「この5文字よね」
「み、ミラさん!?」

焦ったようなルーシィの声に、背中に注いでいた集中が途切れた。
肝心の、文字はと言うと。

「わかんねぇな」

ナツはんー、と呻いて首を捻った。文字もそうだが、鼓動が早くなる理由もわからない。

ルーシィの指が、背中をなぞっただけなのに。

大事なことのような気がして、少し呼吸が速くなってくる。ナツの背面全てが、そこに居るに違いないルーシィの存在を感じ取ろうと躍起になっていた。

もう少し、触れてくれれば。指先だけじゃなくて。

ミラジェーンは思考の逸れたナツに気付くことなく、

「じゃあもう一回書く?」
「や、ちょっと!違いますって!そんなんじゃなくって!」

ルーシィは再度綴ることに抵抗しているようだ。「認めたらいいじゃない」「違います!」「じゃあ嫌い?」「そ、そんなことは言ってませんけど」背中で2人が押し問答する気配を感じながら、ナツは唸った。

「5文字だろ。真っ直ぐ下、の次が斜めだったよな。ってことはNか…。ルーシィが、好きな…?」

整理するように口に出していると、ふと、脳内に明かりが点いた。

「あ、わかったぞ!」
「ひぇ!?」

くるり、とスツールを回すと、ミラジェーンに手を掴まれたままのルーシィが居た。ナツをその目に映すと、ぼふ、と音を立てて茹で上がる。おたおたとスツールから下りようとするが、それはミラジェーンによって阻まれた。
その一連の反応に確信して、ナツはにやりと口元を歪ませた。

「NじゃなくてMだろ。MONEY、金だ!」
「…は?」

ルーシィの片眉がぴくり、と上がった。

「さすがだな、ミラ!オレ、それは思いつかなかった。てかルーシィ、悲しい奴だな、金って」
「あ、あのねぇ…」
「なんだよ、違うのか?」

正解だと疑っていなかったナツはびっくりして、口ごもるルーシィを見つめた。半眼のまま、呻くようにして答えが返ってくる。

「…違わないわよ」
「だろ!」

ルーシィの手を放して、ミラジェーンが深い溜め息を吐いた。


***
carpio:たにし様より40000hit記念DLF頂戴致しました!

NATSU*Natsu、あーもうまさかのナツだなんてっ!
大胆なルーシィvむしろgoodjobミラさん!
たにしさまの中学生のようなうぶさを兼ね備えるナツが大好きです^^*!!

40000hit本当におめでとうございました!
これからも応援しております。


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