とある街の賑やかな広場の一角、人待ち顔でベンチに座るふたりと一匹。


「おっせぇなー、何やってんだあいつら」
「あのねぇ…エルザ達に報酬交渉押し付けたのはアンタでしょ!?何文句言ってんのよ」
「あたりめーだろ、あんなめんどくせぇ事出来るかよそんな雑用は子分どもがやりゃいいんだ、子分どもが」
「…そのセリフ、エルザに面と向かって言えたらアンタを親分って呼んであげてもいいわよ」

ガハハハハ、と笑うナツにルーシィの鋭い切り返しが入るとナツの大きく開けた口が固まった。

「あい!じゃあオイラ、エルザとグレイを捜してくるね!!」

エルザのお仕置きだね〜、とかなんとか身の毛もよだつような物騒な呪文を唱えながらウキウキと二足歩行の青い猫が白い羽根を広げて素早く飛び立つ。

「あ!ちょ、待て!!ちくしょーチクんなよハッピー!!」

いつものフライトスピードよりも三割増しの速度で飛んで行った相棒を立ち上がって恨めしげに見送るナツにルーシィはくすくすと笑いながら手持ちのバッグから小さな本を取り出してぱらりと開いて読み出した。

「ルーシィ!お前余計な事言いやがっ…て、なにやってんだよ」
「なにって、エルザ達が来るまで暇潰しに本読んでるのよ」
「なんだよお前自分だけズリぃな」
「ズルいって…何よ、かまって欲しいの?」
「かま…、いやつか俺が暇になるじゃんかよ」
「知らないわよそんなの、その辺散歩でも行ってくれば?あ、でも遠くに行っちゃ駄目よ迷子になるから」
「俺は子供か!?」

珍しくナツがツッコみ、不満顔を浮かべてどかりとルーシィの隣に座る。
両腕を背凭れの後ろへだらりと下げてだらしなく寝そべると何とはなしに空を眺めるが、飽きるし首が痛い。
ちらりとルーシィを見遣るとやはり本の世界に没頭していて、こうなったルーシィに少しの茶々をいれたくらいでは相手にされないだろう事は学習能力が些か乏しいナツでもさすがに過去の経験で分かっていた。
ヒマだし。空は青いし。ちょっとその辺をぶらついてこようか。でもハラも減ってきたしめんどくさいし。首も痛いし。

「………首、いてぇ、し」

と、誰にともなく呟いて身体を起こしごそりと体勢を変えて再び寝そべるとぽすりと頭にジャストフイットな感触。

「お、やっぱ丁度いいな」

更にベストポジションを探すべく頭をずりずりと動かすと目の前の焦げ茶色の中に『ドラゴン』の綴り。

「なんだルーシィ、ドラゴンの本読んでんのか?」
「んー?んー。ドラゴンがね…」

と、そこで初めてナツとルーシィの視線がぶつかった。

「−−ぎゃー!!!ななな何やってんのよ!あ、アンタ何やってんのよ!!」
「何って、首いてぇから膝借りてる」
「かかか借りてるってアンタ勝手に人の膝、枕にしないでよ!!」
「いーじゃねぇかヒマなんだし、減るもんじゃねぇし」

減るのよ!あたしの中の乙女成分が減るのよ!!
大体、ひ、膝枕なんて、こっ、こい、恋人同士とか、長年連れ添った夫婦とかがするもんなんじゃないの!?
それをこんな、こんなところでしかもよりによってナツにだなんて…!

嫌なら落とすなり立ち上がるなりすればいいものの、そこまで頭が回らないのか真っ赤になって読んでいた本を閉じて抱き締めるルーシィ。

「あ、どっかで見た事ある本だと思ったら前にミラに教えてもらったヤツだ、なんか、ドラゴンの秘密みたいなヤツだろ、それ」
「…は?う、まあそう…だけど」
「それ、面白くねーぞ?ぜんっぜんウソばっかだし」
「ちょっと!まだ読み始めたばっかりなんだからやめてよネタばらしみたいな事!」
「いや、でもホント嘘ばっかだぜ?特にドラゴンのウロコ…」
「やめてってばー!」
「だからさ、知りたいんだったら直接聞けって」
「もーやめ…って…え?聞けって…誰に何を?」
「イグニールに聞けばいいじゃんお前の知りたい事」

ナツがまるで「明日、宿題の解らない所を先生に教えてもらう」ようなノリで話すので「ああそっか、じゃあ質問項目を纏めておかなきゃ」とルーシィは思わず真面目に考えて、はた、と気付く。

「ば…っ、イグニールに聞くってまだ見つかってないし、何処にいるかも分かんないじゃない」
「お前いまバカって言おうとしただろ、てかお前も一緒に探せば早いんじゃね?」
「なんであたしが」
「俺イグニールに会えたら、お前の事一番に会わせるつもりだからさ」
「……は?」
「あ、でもハッピーもいるから一緒に、だな」
「えと、ナツ?それって」
「心配すんなって別に恐くねーしイグニールもお前の事、絶体気に入るから!」

にっかりと自分の膝の上で笑う屈託のない笑顔に思わず本を握り締めていた両手に更に力がこもる。

ええと、ふ、深い意味はないのよ、きっと、絶体、勿論。
なんたってナツの事なんだからフツーに、その、自分の親に友達を紹介するみたいなノリなのよ。
うん。
そそそんな「親父、コイツ俺の彼女」みたいな親に紹介するなんてベタな展開かもなんてあたしが深読みし過ぎなのよ、うん、そうそう、だってあたし達まだ付き合ってもいないじゃないの、えへへもうルーシィったらおバカさんねえ、うふふふふ。

「なんだルーシィ、顔真っ赤だぞ?」
「え?あ・そそそう?」
「熱でも−」
「ほお、子分の膝枕でお昼寝とは随分と優雅だな、親分様!?」

上から降ってくるのに地の底から這い上がる様なその声にピシリとナツの全身が固まるのをルーシィは膝越しに感じる。

「え、ええるるら」

見下ろすとだらだらと冷や汗をかいて半笑いのまま謎の呪文を唱え遠くを見つめるナツ。
歯の根が合わないって、こういう事を言うのかとルーシィは意識の隅で妙に感心しながら声の主を確かめるとそこには怒りの黒いオーラを纏い紅く美しい髪を揺らめかせるエルザと同じように怒りのオーラを背負うグレイ。
そしてその後ろでくすくすと黒い笑顔を覗かせる性悪猫。

「親分様が破壊した物損被害も含めためんどくさい報酬交渉は子分の私達が片付けたぞ?」
「あう…そ、それはそれはごくろうさまでごさいましたえるざさま…」
「子分達の労を労ってもらわないとなあ?親分様よぉ」

エルザとグレイがにこりと笑うとエルザがむんずとナツのマフラーを掴んでずるずると引き摺り歩くと、もうその後に響くナツの悲鳴はいっそ清々しい程に予想された事で。
そして悲鳴に紛れて耳に飛び込んだ叫びにルーシィは再び硬直する。

「ち、ちくしょうえるざなんかいぐにーるにあってもあわせてやんねーからな!!」

悔し紛れに叫ぶナツにルーシィと事の成り行きを見物していたグレイが呆れた様に呟く。

「またなに訳わかんねー事喚いてんだアイツ、なあルーシィ?」

隣に座るルーシィに返答を求めるが彼女は急に俯いてぶるぶると震え始める。

「?ルーシィ?どうした、どっか調子悪いのか?」

様子がおかしいルーシィにグレイが心配そうに声をかけるとぶつぶつと何かを呟いて数十秒後、真っ赤な顔で彼女は助けを求める様に叫ぶのだった。



「−−お、お『お義父さん』って呼んでもいいのかなあっ!?」


end
***
Open Me!:ぎゃら様に頂きました!!

きゃー!きゃー!!
エルザさまがやってくるタイミングが絶妙v
親分と子分、なんて素敵なv
ハッピー!チクったおかげでルーシィの脳内はお花畑だよv
【ルーシィが幸せな感じで】というリクをこんな素敵な形に仕上げて下さってもう本当ありがとうございます!!
ルーシィはバカなんです、そうなんです!
お茶目さんなのです。
そんなところがもう本当可愛すぎるv
最後の『お義父さん』の件がとても好き。
更にルーシィを心配するグレイが何気に好き(嬉*

ぎゃらさま!
本当にありがとうございました*^^*!!


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