プレゼントらしいラッピングを解いたまま、何度も何度も大切そうに瓶を眺める。

中に入れられてるのは赤、黄色、青、緑…。

色とりどりの飴を眺めるルーシィはとても楽しそうで。

何が楽しいのかと思わず覗き込む。



「あげないからねっ!」



―――別に欲しい訳じゃないんだけど。



断固拒否!って顔をしたルーシィに、思わずチリッと胸が焼け付いた。



「オレにも1個くれよ」

「ダメったらダメ!」



「言っても無駄だぞー、オレも断られたからな」



外野からグレイのヤジが飛ぶ。

グレイがダメだからって、何でオレもダメなんだよ。



「オレにはくれっだろ?」

「例えアンタでもダメなのっ!」



ルーシィが両手で大切そうに包み込んだ瓶。

何でお前がルーシィにそんなに大切にされるんだよ。

そう思った瞬間に、口に出た。



「はっ、そんなにソレが大切かよっ!好きにしろよ!」



ルーシィが傷ついた表情を浮かべた。

分かっていたけど、何も言えずに立ち去った。



―――みっともねぇ。



何てワガママな、独占欲。





※この願いが叶うのならば※





「ナツ、あの…この間は…」

「あぁ?何の事だよ」

「だから、あの…」



しょんぼりと沈んだ様子で話しかけてくるルーシィ。

話したい内容は分かっている。

分かっては、いるんだけど――…。



「何言いてぇのかさっぱり分からねーよ」



口ごもったまま、なかなか言葉を出せないルーシィにくるりと背を向け、リクエストボードへと向かう。

あの一件があってからというもの、オレはルーシィを正面から見れずにいた。

理由は、分かってる。

オレの一言で、ルーシィを傷つけた。

だから、謝らなきゃいけない、って思っているけど。

それでも、どうしてもあの時のルーシィの顔がちらついて。

憎まれ口ばかりが、飛び出してくる。



「なに喧嘩してんだよ」

「っせーな」



隣に並んだグレイに茶々を入れられて、余計にカチンときた。



「吹っ飛ばすぞ、コラ」

「やってみろよ」



お互い睨み合い、戦闘態勢へと構える。

もやもやを吹き飛ばすには、これが一番だ!…そう、思ったのに。



「止めんか!お前達!!」



エルザの一言に、不発に終わる。



「…くそっ!」



手近にあったイスを蹴り上げ、“こらナツ!”という声に追い立てられるようにギルドを飛び出した。



―――何でオレが怒られるんだよっ!



治まらないもやもやを吹き飛ばしたくて、木の幹を殴りつける。

2度、3度殴りつけても、一向にすっきりする気配はない。

どうしたらもやもやがなくなるかなんて、本当は分かってるけど。



「あ〜、すっきりしねぇ…」



ごろんと寝転がり、空を見上げた。

そこにある青空は雲ひとつなくて晴れ晴れとしてるのに。

オレの心は、どんよりと曇り空、だ。



「ルーシィの奴…」



大切そうに抱えた瓶が、脳裏に浮かぶ。

ルーシィは、食べ物に執着するような意地汚い奴じゃない。

いつもなら気前良く差し出してくれるのに。

アレだけは、絶対にダメだと言った。

綺麗に施されていたラッピング。もしかして。



―――やっぱり誰からか貰ったプレゼント、だったのだろうか。



「あーーー、すっきりしねぇっ!!」



がばっと勢い良く体を起こす。

プレゼントだから何だって言うんだ。

ルーシィだって、プレゼントの1つや2つ、貰って当たり前だろう。

そんなのいちいち気にしてたら、こっちの身が持たな――…。



「あ、れ?」



そこまで考えて、疑問が浮かぶ。

何で、ルーシィがプレゼント貰ったぐらいでイライラしなきゃならねーんだ?



「んんー?」



首を捻り、考えてみる。

ルーシィ。プレゼント。大切。くれない。…身が持たない。

なんで“ルーシィ”がプレゼントを貰ってると“オレ”の身が持たないんだ。

自分で考えた事ながら、意味不明で。

まぁいいか、と切り替えた。

プレゼントだとかそうじゃないとか、そんな事はどうでもいい。

今はとにかく、どうにかしてルーシィに謝る方法を考えなければ――…。



「ナツ…」

「ルー…っ!!」



いつの間にか、木の陰に隠れるかのようにルーシィがいて。

オレを追いかけて来てくれたのを嬉しく感じてるくせに、…それでも。



「何の用だよ」



憎まれ口しか出てこない、馬鹿なオレ。

ルーシィを傷つけたい訳じゃないって言えばいいだけなのに。

口を開けば、きっと思った事を口に出してしまう。

“あれは誰から貰ったんだよ”…そんな事、言える訳ねぇ。



「あの、ね。ナツ。あの飴は…」

「いいって。別にオレに言い訳する必要ねぇし」



ぱんぱんと体についた土を払い落としながら、立ち上がる。

ルーシィへと、背中を向けたまま。



「誰かさんに貰った大切なモンなんだろ?くれ、なんて言って悪かったよ」

「え……っ」



しまった、と思った時には遅かった。

思わず言ってしまった事に口元を押さえるも、やっぱり無駄だと手を下ろし。

はーっ、とため息をついて一呼吸置いてから、ルーシィを振り返った。



「悪かった…よ……っ!?」

「………っ、ひ…っ、ひくっ」



突然泣き出したルーシィに、これ以上ないぐらいに慌てて。

“どうしたんだよっ”とか“泣くなよっ”とか“悪かったから”とか必死に言葉を並べるも。

ルーシィはただ泣きながら、頭を左右に振るばかり。



―――困った。正直、困った。



こういう時にはどうしたらいいのか分からねぇ。

あたふたとルーシィの周りでうろうろしてから。



「泣き止めって…、頼むから」



そっとその頭を胸の中へと呼び込んだ。

すとん、と大人しく飛び込んできたルーシィにホッとしながら。

ふわりと漂ってきたルーシィの香りに、ドキッとして。



「なっ、泣くなって!!」



ぎゅう、と強く腕に力を込める。

“痛いよ、ナツ”…そう小さく声が聞こえて、慌てて腕の力を緩めた。



「ごめんね…ナツ…」

「違っ…、悪いのは、ルーシィじゃねぇ!」


先に謝られて、心底慌てた。

ルーシィが謝る必要なんかこれっぽちもない。

悪いのは。



「…オレだ。すまねぇ」



必死に何とかそれだけを口にしたオレに。

まだ涙を浮かべたまま、“ん”と小さく、でも確かに返ってきた返事にホッとして。



「だーっ、もう泣くなって!」



その目に溜まった涙を、乱暴に拭い取ると。

いつも通りの笑顔で、“痛いよ!”って、笑ってくれたのが嬉しくて。

何となく、そのままガシガシと頭を掻き混ぜる。

“ちょっと、止めてったら!イヤー!!”って、じたばた暴れるのが楽しくて。

そのままガシガシやってたら。



「ナツのバカー!!」



―――またルーシィを怒らせた。



「もうナツなんか知らないっ!せっかくあの飴の事教えてあげようと思ったのに!」



駆け出しざま。

ルーシィが投げ捨てた言葉が耳に留まって。



「ちょっと、待てよっ!教えろって!!」

「いーやっ!絶対に教えないっ!!」

「何だよソレ!」



走り続けるルーシィと、追い掛けるオレ。

徐々に縮まるルーシィとの距離。

必死に逃げているだろう背中を追いかけて。

捕まえたらどうしようか、なんて考える。



腕を捕まえて。

引き寄せて。

逃げられないように、抱き締めて。



―――白状するまで、絶対に離さない。



「待てよっ!ルーシィ!!」



君の背中に追いつくまで、…あと少し。







「あれ、ミラちゃんも持ってるのか?ソレ」

「この飴の事?」



色とりどりの飴が入った瓶をかざす。

それは確かにルーシィが持っていた物と同じ物。



「1個くれよ」

「ダァーメ」

「…ちっ、ミラちゃんもかよ」



憮然とした表情を浮かべたグレイを楽しそうにくすくすと笑い、“これは特別なのよ”とウィンク1つ。



「あぁ?そんな飴が?」

「そう。これはね――…」



こそりと耳打ちされて、呆れたように“ナルホド、ね”と笑う。



「そんな飴で両思いになれれば苦労はしないぜ?」

「くすくす。女の子は皆おまじない好きなのよ」



“知らなかった?”と微笑むミラに、肩を竦めるグレイ。



瓶の中では、カラリと飴が楽しそうに音を立てて転がっていた。


***
Guroriosa:碧っち。様より20000hit記念DLF頂戴致しました。

`そんなの一々気にしていたら身が持たない`なナツが本当可愛いv
ルーシィは可愛いんだぞー、本当はv
やきもちを妬いちゃうナツが好き。大好き。
好きな子に泣かれると困っちゃうところとかめちゃくちゃゆん好みでしたvv

20000hit overおめでとうございました!


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