「よっしゃ、オレの勝ち!」
「グレイが勝つなんて納得いかねぇ!」
「3回勝負だよね?」
「ナツ、ロキ。負けたからって言いがかりつけてんじゃねーぞ」
「言いがかりなんかじゃねー!」
「ホント、ナツってば子供だねぇ」
「そういうお前も手、光ってるぜ?ロキさんよ」
「ん?気のせいだよ、グレイ」
どっかーん。ぱりーん。がしゃーん。どごっ。
「あ〜ぁ、相変わらず派手にやってるわねぇ」
炎と氷と光が入り乱れて乱闘騒ぎを起こしているギルドの片隅。
ギルド内の設備が飛び交い、派手に壊れているのだが。
アレって明らかに器物破損よね?…なんてルーシィはストローを咥えながら横目で眺める。
炎と氷は自己責任、って事で済むのだろうが。
残りひとりは若干、契約者として責任を感じなくも…ない。
家賃の支払いだけで手一杯なのに、もしここで弁償なんて求められたら…?
「ストーップ!!待ちなさい、あんた達っ」
嫌な予感が現実になる前に対処すべく。
ルーシィは手元にあったグラスを騒動の渦中へ向けて投げ入れる。
(それも立派な器物破損)
3人のうち、誰かにでも当たってくれればいい、なんて安直に考えていたのだが――…。
「いっ、たぁ〜。なに、これ。グラス?」
「ヒビキ!?」
突如聞こえた恋人の声に驚き、音を鳴らしてイスから立ち上がる。
いつの間にそこにいたのか、頭を擦りながらルーシィが投げたグラスを手に持つヒビキ。
―――ゴッ、という重く派手な音がしたのはもしかして。
「このグラス、どこから飛んできたんだー…?」
不思議そうに辺りをきょろきょろと見回す姿に、そろりと視線を外してさりげなくイスに座る。
全身で“私は関係ないのよアピール”をしてみるも。
“ルーシィが投げたんだ!”なんてナツの無神経な一言で無駄に終わる。
「ルーシィ…。グラスは投げない方がいいと思うよ?」
「ごっ、ごめんなさい。まさかヒビキに当たるとは思わなくてっ」
ヒビキに当たらなければ問題なかったとさらりと怖い事を言う恋人に。
少しだけ乾いた笑いを浮かべると、ヒビキはそのグラスを彼女の手に渡す。
ルーシィはとても可愛い外見をしていると思うのだけれど、その中身は油断すると全身に大火傷を負う。
見た目に騙されちゃいけない典型的なタイプなのだ。
「物は大切にね、ルーシィ」
「…はい」
受け取ったグラスをうにうにと動かしながら、バツが悪そうに視線を彷徨わせるルーシィ。
いくら強気で元気一杯な彼女でも、さすがに愛しい人の前では女の子に変化する。
そして、そんなルーシィとヒビキのやりとりを面白くなさそうに眺めていたのは。
「そんなグラスに当たる方がトロいんだよっ」
ふふん、としたり顔のナツに。
「当たる前に受け止めろよな。わざとらしい…」
ちっ、と隠そうともしない舌打ちをするグレイに。
「そもそも、余所者がフェアリーテイルで何の用だい?」
穏やかな笑顔の背後に暗雲を背負ったロキ。
いつの間にかすぐ近くにまで迫ってきていた3人に、ヒビキは内心“おやおや”と肩を竦める。
フェアリーテイルに来ると、いつも邪魔をしてくる3人組。
彼らの目的はあからさま過ぎて確認する気も起きないが、――…狙いは完全に僕の彼女。
ヒビキはさりげなくルーシィの肩を抱き寄せ、その体をぴたりと寄り添わせてから。
「愛しいルーシィに会いに来るのは、恋人として当たり前の事だろう?」
にっこりと、完全勝者の余裕の笑みを浮かべて3人を見渡す。
ぎりりっ、とどこかで歯軋りが聞こえたような気がして肩を抱かれたルーシィが首を捻るも。
“どうかしたの?”なんてヒビキの様子に気のせいだと思い直す。
―――本当は、歯軋り3重奏だったのだが。
大人のヒビキ。ルーシィの意識をさりげなく逸らすなんてお手の物。
「さ、ルーシィ。今日はどこへ出掛けようか?」
「今日は行きたいカフェがあるの!甘いモノだけど…いい?」
「もちろん、君と一緒ならどこでも喜んで」
「良かった!じゃあ、ちょっとグラス片付けてくるから待ってて!」
ヒビキから受け取ったグラスを持って、カウンターの向こうへと消えるルーシィ。
いってらっしゃい、と小さく振っていた手を静かに下ろすと。
くるりとその体を反転させ、背後に並ぶ3人へと身体を向けた。
「君達もしつこいね。いい加減、諦めたらどうなんだい」
にこにこと笑うその表情を崩すこともなく、言葉を告げるヒビキとは対照的に。
今にも飛び掛からんばかりの殺気立った視線を向けるナツ、グレイ、そしてロキ。
いつも、いつも、いつも。
僕の姿をその視界に捕える度に、飽きもせず殺気をぶつけてくるメンバー。
彼らが僕を心底殺したいと思うほど恨んでいるのは当然だと思うが。
それでも、殺されるつもりなど更々ない――…。
「しつこい男は嫌いだよ」
ふぅ、とため息をつくヒビキに。
ぴくりと眉を顰める3人。
「お前に嫌われても関係ねぇ」
「誰がテメェの好みなど…」
「自意識過剰だよねぇ」
予想した通りに噛みついてくるメンバーに向け、ヒビキは可笑しそうにふっと笑った。
「ルーシィが、だよ」
『――――っ!!!!』
やられたっ!…とばかりに悔しそうな表情を浮かべる男共を目の前に。
ヒビキは口角を少しだけ上げて笑う。
君達が彼女を手に入れようなんて、おこがましいにも程がある――…。
「ごめん、ヒビキ。待った?」
「いや、待ってないよ。大丈夫。さ、出掛けようか?」
「うんっ!…って、何やってんのよあんた達」
ヒビキの目の間に居並ぶ3人に気付き(今頃)、ルーシィは声を掛けるが。
“何でもねぇよ!”、“気にすんな”、“本当に何もないからね〜”なんていつもの3人に。
少しだけ気持ち悪さのようなものを感じながらも、結局、今は目の前にいる恋人の事にしか興味はなく。
「じゃ、行ってきま〜す」
なんて笑顔でヒビキの腕に絡まり、ギルドを出て行くルーシィ。
その後ろ姿が完全に見えなくなってから。
『くっそぉーーーーっ!!』
見事にハモッた3人の声がギルドに響く。
いつまでたっても届きそうにない3人の気持ち。
3人の恋はとても遠い日の事になりそうである――…。
***
Guroriosa:碧っち。様より相互記念に頂戴致しました!
ヒビルー\(^^)/
「そんなグラスに当たる方がトロいんだよっ」のナツがもう可愛すぎる!
各々ヒビキに嫉妬してくれちゃってもう…。
ルーシィ争奪戦がもうほんとどうしましょうって感じですよ
碧っち。様!本当に本当にありがとうございました!!
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