嗅ぎ慣れた甘い匂い。
揺れる金糸が靡いて。
声を掛けようと近付けば―――その隣に見知らぬ誰かがいた。
どくん、と一際強く心臓を打ちつけた鼓動に気付いた瞬間。
全身から駆け上がる熱に焦りを感じる。

 (…そいつ、誰だよ)

たった一言、そう言って近付けば良い。
けれど、立ち止った足はそこに縫い止められたように動かなかった。
笑顔で見送られた男に言い知れぬ不快感を覚えて。
渦巻く感情にただ只管と戸惑いを持て余す。
地を蹴って向かった先はルーシィの部屋で。
誰もいないその部屋にいつもの窓から侵入した。
ほどなくして、かちゃりと扉が開く。
その音と共に帰宅する家主を憮然と待ち構えた。

「…あんたね、不法侵入だって何度言えば…」
「あいつ誰だよ」

溜息交じりに吐き出すその言葉を遮って。
溢れ出る感情をそのままぶつける。

「は?」

きょとん、と不思議そうに首を傾げるルーシィ。
動く度に微かに混じる不快な匂い。
それが届く度に言い知れぬ怒りが沸いてきて。

「あいつ、さっき見た…街中で」

苛々と湧き上がる感情をどうにか押えこみながら一つずつ思い出したくもないことを口に出して。
辿り着く答えはただひとつ。
嫌だ、という結論。

「あ、あの…何言ってるの?」

むす、と口を尖らせるナツの視線にこくり、と喉を鳴らして。
知らず、一歩後ずさった。
その仕草ひとつにすら感情が逆撫でされて。
溜息と共にがりがり、と髪を掻き混ぜて、ルーシィへと近付く。

「さっきだよ、いただろ…一緒に」

ゆっくりと距離を詰めて揺れる瞳を覗きこんだ。
鼻先が触れそうな距離まで詰めて漸くルーシィだけの匂いがする。

「っ…ち、近いっ」

吐息が混じることに安堵したのも束の間。
肌が触れる寸前で、頬を赤く染めたルーシィが勢いよく離れた。

「近くねぇだろ」

諦めたように長い溜息を吐き出して、半眼で見下ろせば。
口をぱくぱくさせながら言葉にならない声を紡ぎ出す。

「な…だ、から…」
「なんだよ」
「い、言ってる意味が理解できな…―――第一さっき…って……眼鏡、かけてた?」
「あ?あぁ」

思い出したように投げ掛けられた言葉に相槌を返して。
薄れた記憶を甦らせて再び胸の内に曖昧な感情が渦巻いた。

「…道、訊かれた…人?」

言い辛そうに、視線が泳いで逡巡した末に零れた言葉。
出てきた答えは予想していなかったもので。
数秒間、言葉の意味が理解できなかった。

「……道?」
「え?う、ん…?」

未だ意図が掴めないルーシィを眺めて。
不快感を煽った感情が鎮まることを呆然と受け入れる。

(道聞かれんのも嫌だ…けど、なんで俺そんなことルーシィに思うんだ…?)

靄がかった感情の渦が消えていって残るのはルーシィだけで―――。

「もしかして…やきもち?」

不意に小さく零された声にぴくり、と反応して。
すんなりと当てはまる感情に思わず焦った。

「…ま、紛らわしいんだよ」

乱暴に逸らした視界の端には揺れる金糸が靡く。
ちらり、と盗み見たその顔は初めて見る表情で…―――。
思わず止まった呼吸に波打つ鼓動と感情が掴まれた。


fin.
***
ヴェラーノ:アル様へ

*0502*
お誕生日おめでとうございます!!

テーマは以前勝手に拝借して捏造させて頂いたアルさまの小憎らしいナツv
アルさまのナツ大好きです!
素敵な絵にいつもいつも言い知れぬほかほか気分を頂いております^^*!

そんなアルさまのお誕生日にナツ愛を捧げますv

改めまして、お誕生日おめでとうございます!
アルさまにとって素敵な一年となりますように。

change about:方向転換する.
くるくる変わる;変節する;〈地位・境遇などが〉がらりと変わる.


[戻る]

「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -