いつものメンバーといつものように仕事。
魔物討伐の時点で予想していたが、相変わらずの派手な戦闘で街を半壊。
当然報酬額が減らされることもいつもの如く――慣れたくはないけれど、日常の出来事。
「もうっ!ほんっとに信じられないっ!!」
顔を真っ赤に染め上げてルーシィは叫んだ。
「わ、悪かった…よ」
あまりの迫力に一歩後退りながらもなんとか口に出した言葉は再び喚き声に掻き消される。
「何考えてるのっ!いや、あんたは何も考えてないわよね!!」
捲し立てて並べられる言葉の数々は、口を開け閉めしている内にどんどん増えていき、呻き声しか出ない。
金糸の髪を押さえながら涙が零れそうな程に溢れた瞳でキッと睨み上げて、ルーシィは更に口を大きく開けた。
「髪は女の命だと思いなさいっ!!」
びしり、と指ひとつ突きつけて、勢いよく背を向けたかと思えば、しばらく俯いて…―――。
あっという間に走り去ってしまった。
引き止めようと伸ばした腕は宙で行き場を失って空を掴む。
「ほんっとアホだな」
「全く…お前という奴は」
呆れ半分に溜息をつくグレイとエルザ。
そんな二人の声など届いていないようにナツは言葉を失って固まった。
『もう口利かないから…―――』
走り出す間際に耳に入ってきた言葉が頭の中をぐるぐると彷徨って思考がうまく働かない。
「とにかく、早く謝っちまいな」
「そうだな、こういうことは早い方がいい」
呑気にそう言ってくる二人の声がやけに遠く聞こえる。
(くそ、好き勝手言いやがって…口利かないとか言われたんだぞ)
ぐぐ、と拳を握りしめて、地面を睨みつけた。
まさか魔物に吐いた炎がルーシィにまで飛ぶなんて思いもせず。
怪我していないことにほっとしたのも束の間。
叫ばれて気付いた時には既に手遅れ。
髪が焦げた、と叫ぶルーシィはある意味エルザよりも恐ろしい。
いや、実際にエルザを圧倒するほどの形相だった。
(あんまり変わんねぇんだからいいじゃねぇか…鬼みてぇに怒りやがって)
心の中でぶつぶつと言い訳をしているとちょこん、とハッピーが頭上に乗ってくる。
「ナツー、オイラも謝った方がいいと思うよ」
ルーシィが走り去った方向へ顔を上げて、微かに残る甘い匂いに溜息ひとつ。
「わぁーったよ…行ってくるからお前ら先帰ってろ」
嗅ぎ慣れた匂いを辿って勢いのまま走り出した。
そんなに遠い距離ではないのに、肺が軋んで、鼓動が波打つ。
(口利かないとか、無理言ってんじゃねぇよ)
瓦礫の端から靡いて見えた金糸を視界に確認して足を止めた。
荒い息を整えながらゆっくりと近づいて、その名を呼ぶ。
「ルーシィ」
当然のように返事はない。
「オイコラ」
「…なによ」
むす、と不機嫌全開の涙声に一瞬だけ怯んだが、気を持ち直して一歩ずつ近づく。
「いつまで拗ねてんだよ」
トン、と壁に凭れかかりながら空を仰いで溜息を飲み込んだ。
小さく鼻を啜る音が微かに響いて。
「…ほっといてよ、口利かないって言ったでしょ」
「は?やだね。ホラ、帰んぞ」
視線は上を向いたまま掌だけ差し出して、掴めと促す。
「…信じらんない」
恨みがましくその手を眺めて溜息ひとつ。
「次、やったら今度こそ許さないから」
「…つーか、あんま変わんねぇんだからそんな怒んなよ」
そっと触れてくる手を絡め取るようにぎゅ、と掴んで、安堵の息を吐いた―――。
fin.
***
Absurd Lovers:ゆーく様へ
*0428*
お誕生日おめでとうございます**
以前20000打企画にアンケート頂いた【飛び火でルーシィの髪を少し焦がしてしまったナツのオロオロ(髪の長さ変わらず)】をコンセプトに献上してみようと思います。
この度は本当に本当におめでとうございました!!
御家族共々素敵な一年となりますこと、心より願っております**
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