歩き出した途はあまりにも不透明で。
不安は不思議となくて。
離れる寂しさよりも自分らしさを貫こうと想った。
独りじゃないのはたったひとりの大事な人がいつも側にいるから―――。
毎日書き綴る手紙にスタンプを押して、いつもの引き出しへ仕舞う。
かたん、と静かに響く音に少しだけ淋しさを感じて。
(…今日は、来ないのかな)
軽く腕を伸ばしながら窓を眺めた。
日課となった不法侵入者の姿を探して。
いつも扉を開ければ出迎えてくれる笑顔。
部屋が散らかされるのは嫌。
汗臭いのも嫌。
だけど、騒がしいのは嫌じゃない。
少しだけ乱暴に触れてくる指も力強い腕も素直な態度も。
小生意気で愛らしい仔猫も。
数えきれない優しさが溢れている妖精の尻尾も―――大好き。
(家族…―――か)
詰め込んだ想いの蓋を撫でて瞼を閉じる。
当たり前の騒がしさに慣れて。
不自然に静かなこんな夜は少しだけ感傷的になる。
(お風呂…入ろう)
はー、と溜息ひとつ。
かちゃり、と鍵を取り出して立ち上がれば。
がたん、と乱暴に窓が開け放たれる。
反射的に振り向くと、きょとん、としたふたり組。
「あれー?ルーシィお風呂じゃないよ」
「あ?本当だ」
「な…こ、これから入ろうとしてたところだけど…」
驚きながらもそう言葉を紡げば、顔を見合わせて溜息を吐き出すふたり。
「いつもこのぐらいに入ってんだけどなぁ」
「あい、ルーシィがお風呂入ってる隙に驚かそうと思ったのに。残念です」
首を傾げて残念そうにするふたりに思わずくすり、と笑みを零して。
「残念でした。ていうか、不法侵入だから!」
顔を見るだけで元気になれる。
声を聞くだけで安心する。
交わった視線に頬を緩ませて。
笑うその表情に釣られて笑顔になる。
こんな日をずっと繋いでいきたい―――。
fin.
***
無敵のヴィーナス:かおり様へこっそり相互記念に書かせて頂きました。
かおり様と言えば笑顔なナツルー。
と、いうことで最近切ないテイストが好きなゆん。
それぞれ抱えているものがあるけれど笑顔になれる、をコンセプトに。
こんなゆんですが、どうぞよろしくお願い致します。
相互、ありがとうございました!
もしお気に召して頂ければお持ち下さい。
かおりさまのみお持ち帰り可。
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