吹き抜ける風が暖かな匂いに変わった。
マフラーが靡いて桜色が揺れる。
近付く気配に思わず口許が緩んだ。
「ナツ?」
陽の光を反射させて金糸がきらきらと輝いて。
その粒子の粒を掴めば、ぱちり、と瞳が大きく見開いた。
何やってるの、と問いかけられて曖昧に返事して。
いつもの席へ座るルーシィに倣う。
「んー…別に」
自身の右手を開いたり閉じたりして掌に何もないことを何度も確かめた。
(匂いに色が付いたみてぇだったんだけどなぁ…)
食い入るように掌を眺めているとくすり、とカウンター内のミラジェーンが笑う。
一瞬だけ、視線が合って。
彼女は微塵も変化を感じさせずにルーシィと楽しそうに話を続けていた。
(…こっち、見ねぇかな)
弄んでいた掌を下して。
ちらり、と顔を上げてルーシィを見れば同時に視線が交差する。
波打つ鼓動に自分自身が驚いて―――思わず、顔ごと逸らした。
(やべぇ…何やってんだ、俺)
逸らした途端に身体中の熱が沸騰したように駆け上がって来る。
心臓から響く音は相変わらずで鳴り止みそうもない。
ぐしゃ、と髪を掻き混ぜて思い切り息を吸う。
「ナツ」
溜め込んだ息を吐き出しながら望んだ声に釣られて振り向いた。
「なんだよ」
「何って…ナツが思い切り顔逸らすから」
なにかと思って、と首を傾げる姿に惹かれるように近付いて。
揺れる瞳を間近で見つめる。
(ルーシィ…なんだよなぁ?)
先ほど弾んだ胸を強く掴んで、首を傾げた。
血が逆流するような。
喧嘩中の高揚感に似たような。
熱く滾った熱の感触に戸惑いを覚えて。
食い入るようにその瞳を覗き込む。
「な、ち、ちょっと、近い!」
もう少しで鼻先が当たりそうな距離でルーシィは一歩、二歩、後ずさった。
「んー…逃げんなよ」
「な、に言って…っ」
飲み込んだ言葉と止めた息。
ふわり、と霞む甘い香り。
くん、と鼻を鳴らしてもう一歩。
「―――なんか、美味そうなんだよな」
首を傾げて身体を離して。
ルーシィの表情を窺えば、その顔は真っ赤に染まっていて。
交わる熱が甘さを惹き立てた気がした。
甘い香りはまるでその人だけの独特な匂い―――。
fin.
***
Ms.Perfume:ティアラ様へこっそり相互記念に書かせて頂きました。
もはやリクエストに伺うのが申し訳なくて`気持ち`ということで感謝の気持ちを表現してみました。
無意識無自覚から自覚まであと一歩、なナツ。
趣味全開で恐縮ですがこんなゆんをどうぞよろしくお願い致します。
相互、本当にありがとうございました!
もしお気に召して頂ければお持ち下さい。
ティアラさまのみお持ち帰り可。
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