「可愛いなぁ」
もう何度目か、甘い声で囁く十二宮の精霊。
その姿を背にルーシィは、はぁ、と溜息を吐いた。
「ねぇ、ルーシィ」
くるり、と上機嫌で振り向く彼に声を掛けられるが、ぴくり、と微かに反応を示しただけで振り向かない。
「ルーシィ?」
「…なによ」
再度、少しだけ不安げに呼ばれて仕方なしに答える彼女。
「怒ってるの?」
「怒ってないわ」
「不機嫌そうだね?」
「…それは、ロキがまた勝手に出てくるから、」
拗ねたような声を紛らわすように顔を横に向けると、くすり、と見透かしたようにロキが笑った。
(もう、引き受けるんじゃなかったな…)
散歩がてらに寄った本屋での出来事を思い返す。
頻繁に通っていた所為か顔と名前をしっかり覚えられて、世間話くらいはする仲にあった本屋の主人に数日間子猫を預かって欲しいと頼まれたことが始まりだった。
始めは丁重に断っていたのだが、なかなか手に入らない新書を出されては引き受けるしかない。
(まったく…本好きの心理を逆手にとるなんてある意味えげつないわ)
ふぅ、ともう一度溜息を吐いて、読み終わったその本へと視線を落とす。
「ルーシィが慣れない世話を頑張っていたからね」
見ていられなくて、と言いながらふにゃりと笑顔で近寄ってくるロキ。
その腕には、茶虎で愛嬌のある眼をした子猫。
じぃ、と眺めるとふい、と視線を外された。
「どうしてロキにばっかり懐くのかしら」
「獅子だから?」
自分が世話をしている時は、あまり摺り寄ってこなかったのに、どうしてロキが触れると甘えたようにすり寄るのか。
確かに獅子は猫科だけれども。
「面白くない」
むぅ、と口を尖らせて眉根を寄せる。
心の中がもやもやとしてすっきりしない。
「ズルい」
「なにが?」
口をついて出た言葉にロキはきょとん、と首を傾げた。
「ロキばっかりズルい!あたしも遊ぶ」
カタン、と席を立ってその腕に手を伸ばすルーシィにロキはくすり、と苦笑する。
そして子猫をルーシィへと手渡すと、その耳元へ唇を寄せた。
「ルーシィ、やきもち?」
低く響くように囁けば、ほんのりと桃色を帯びていた頬がかぁぁ、と真っ赤に染まる。
「ち、違っ…」
「心配しなくても比べられない程ルーシィは可愛いよ?」
眼を細めてルーシィの顔を眺めてそう告げれば、益々焦って眼を潤める姿が愛おしい。
「だから違うっ!心配なんてしてない」
「本当に?」
「してないったら!」
あまりにも必死に言い切られて困ったように眉を下げるが、小さく嗜虐心がそそられた。
「本当は?」
もう一度、笑顔のまま真剣に訊ねれば、言葉を濁して俯くルーシィ。
「ねぇ、ルーシィ。本当は、ちょっと寂しかったでしょ?」
ほとんど希望に近い想いでそう問い質せば、最愛の人は小さく、けれどもはっきりと、こくん、と頷いた。
くす、と嬉しさから笑みが零れる。
「ち…ちょっとだけよ!」
それでも尚強がろうとする彼女の眼を見て、ふにゃり、と笑えば赤い頬を隠すように顔を背けた。
「うん、構ってもらえないって寂しいんだよね」
「だからっ…」
「だから、もっと僕を構って?」
にゃぁ、と小さく鳴いた子猫を一撫でして悪戯に微笑めば、ルーシィが困ったように視線を逸らす。
それから嬉しそうに笑った。
fin.
***
Open Me!:ぎゃら様へ相互記念に書かせて頂きました!
やきもきしてもやもやするルーシィ。
そしてちょっと計画的作戦に出てみるロキ。
なんかやらしいぞ。
見せつける様に愛猫ぶりを発揮するなんて。
でもまんまともやもやしちゃうルーシィとしてやったりなロキ。
要はいつも構ってもらえないのはロキなんです!
あれ?リク内容に叶った…のかな?
ちょ、違うって感じでしたら…これがゆんの限界ということで目を瞑ってやって下さいませ。
ぎゃらさまのみお持ち帰り可。
相互、本当に本当にありがとうございました!!
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