願うよりも側にいることの方が重要だったから。
いつも一緒にいたい、なんて思ったことはなかった。
失いたくないのならば、いつだって手の届く距離を感じていればいい。
ただそれだけのこと。
だから、どこかへ行く時は大抵声を掛けていたし、勝手に付いて行っていたのに。
その日は何故か、ルーシィはひとりで出掛けていってしまって。
それからというもの最近はずっと、チームではなく別々に仕事へ行くことが増えた。
否、増えたわけではない。
ひとりで仕事に行くのは控えた方がいいとロキが言い始めたことをきっかけにグレイやエルザは単独で行っても差し支えない仕事でもルーシィと一緒に行くようになったから。
今まではチームで行ってたのに。
最初は三人だけだったのに。
ハッピーだって最近ではルーシィとふたりで仕事へ行く。

 (……つまんねぇ)

不貞腐れるようにナツがカウンターへ突っ伏すと愉しそうにミラジェーンがくすくすと笑った。
その声に顔を上げれば、頼むよりも先にファイアドリンクが手元へ置かれる。

「ナツは本当にルーシィが好きなのね」

今までずっとハッピー以外とチームなんて組まなかったのに。
そんなことは散々言われてきて。
それでも、本気で楽しそうに笑って、怒って、泣いて。
「今月の家賃!」と嘆くルーシィがいつだって脳裏を過った。
病気かもしれない、なんてぼんやりと考えながらイグニールのことを思い出す。
こんなにも他の誰かに執着することなんてなかったのに。
もやもやとした感情を飲み込むようにナツはグラスで揺れる炎を口の中へ頬り込んだ。

「ナツも仕事へ誘えばいいじゃない」
「いや……いい」
「きっとルーシィから言って欲しいんだよ!」

にこやかに微笑むミラジェーンへハッピーが活き活きとした動きで報告をする。
違うともそうだとも言えない複雑な気持ちのまま再び顔を伏せるとふたりの楽しそうな笑い声だけが耳に入ってきた。
ギルド内に籠る喧騒も熱気も心を満たしてきたなにもかもが物足りない。

「ナツ、いつまで落ち込んでるの」
「別に、そういうわけじゃねぇよ。ちょっと考え事…」
「ナツが!何かを、考えるー!?」
「あらあら」

わざとらしく戯けるハッピーを横目に黙っていると小さな溜息が返ってくる。
ミラジェーンが宥めるように青い頭を撫でると扉の方へ視線を投げた。

「ほら、お待ちかねのルーシィが帰って来たわよ」
「……帰る」
「え?」

ガタリと席を立つとミラジェーンとハッピーが目を丸くする。
どうしていいかわからなくなるなんてこと、今までなかったのに。
ハッピーがいて、ルーシィがいる日常が当たり前になっていて。
ルーシィが側にいない毎日がこんなにも物足りないなんて、夢にも思わなかった。
けれど、そんなことを想うのはきっと自分だけで。
他の誰も、ルーシィも、満たされないなんて―――きっと感じないんだろう。
靡く金糸が視界の端に映り、擦れ違い様に声が掛かる。

「あ、ナツ……ただいまー」
「おう」

いつもと同じ笑顔が向けられて満足のはずなのに、何かが異なって。
首を傾げたルーシィへ振り向くことなく相槌だけを打つとギルドを出た。
そうして振り返った建物の中からは相変わらずの喧騒が響いていて。
誰かがあとを追ってくる気配なんてない。
今まで当たり前のように向かっていた路を眺めながらナツは溜息一つ、帰路を辿る。
その姿が小さく霞んだ頃、そっと開かれた扉から琥珀色の瞳が心配そうに揺れたことには気付かずに。


***
知っているつもりだった。
自分のことは自分が一番。

2012.07.02.
ナツの日。


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