「おーい、そこの。あんただよ、あんた」
「え? あ……っ」

シャワールームからの帰り道、声を掛けられ振り向いたそこに立っていたのは、先頃見知ったばかりの顔。

驚きと同時にナツが示した憤慨と反感を思い出し、近付いてくるのを無視して素っ気なく歩きだす。

「待てよ。チッ、つれねぇな」

早歩きでも、長い廊下はなかなか終わらなかった。その間も一定の速度のまま後ろをついてくる足音を睨んでやると、ルーシィに合わせて向こうも止まった。

どうやら深追いするつもりはないらしい。
が、そのまま逃すつもりもないらしい。

「〜〜〜〜っ、何の用よ!」
「用ってゆーか……。あんたにちょっと聞きたいことがあんのさ」
「聞きたいこと?」
「待てよ、色々あるんだ。例えば――」

睨むように見据えるルーシィの瞳に、闘技場でのナツとの姿が思い出されて、

「――あんたって、ナツさんの女?」
「はあ!? ち、ちち違うっ」

つい口を突いたのは優先順位の低い質問だったが、ルーシィの反応は上々だ。

「ホントに?」
「ホ、ントにっ」

湯上がり間もない薄着の身体を、上から下まで品定めするように視線でなぞる。

「ふーん……」

その結果、どことなく白けた表情に醸し出される「そうだろうな」と言わんばかりの空気に、違う紅潮が頬を覆った。

「そんな下らないこと聞きに来たの!?」
「おいおい、怒りっぽいな。オレが聞きたいのは、七年間の……――」

ようやく本題に入ろうとした時、

「待ってよナツー!」
「早く行かねぇと上がっちま……あ!?」

廊下の曲がり角の向こうから何やら全力で走ってきた一人と一匹が、ぶつかる手前でぴたりと止まる。

「え、な……あぁ?」

意外すぎる組み合わせに一瞬フリーズしていたが、ナツはすぐに気を吐いて、

「ルーシィに何の用だ!」
「二人して同じようなこと言うんスね」

凄む姿は勇ましいが、ルーシィはその前に聞こえたやりとりを聞き流せずに、

「……てか、あんたこそ私に何の用よ」
「う。そ・それは……だな」

口篭もりながらて見上げても、ハッピーは微塵も助けてくれないばかりか、黙って来た道を去る始末。

「おい、ハッピー! そりゃねぇだろ!?」
「あんたに一人前の下心があったなんて、何かショックだわ……」
「どーゆー意味だ! つか別にオレはっ」

場所も場合もはばからず、繰り広げられる痴話喧嘩――あんなにも怒りを露わにした敵の存在を、完全に忘れ去っている。

(……どーゆー神経してんすか?)

隙だらけの男を前に、探りを入れるのも無意味に思えた。否、警戒するだけ空しい。

だが忘れられたまま消えるのも面白くなかった。
手ぶらで帰るより、ひとつ遊んでやり返したい。俄然悪戯心が疼きだし、

「きゃあ……!?」

無防備なルーシィの肩を易々と引き寄せ、その耳元へ、何事かを囁いた。

「なっ……ちょっと!」
「おいコラ、触んじゃねぇっ」

距離を詰めようとしたナツをぎょっと顧みたその顔は、何故かひどく赤らんでいて、

「ああああんたこそ近付かないでっ」
「はあ!?」
「てか控え室に戻ってて!」
「じゃあ一緒に行けばいーだろ」
「え!? わ・私は……そうだ、そう、この人に話があるのよ」
「話ぃ?」
「〜〜〜〜っ、いいから先行ってよ!」

さっきのことエルザに言いつけるわよと続けられ、下心については既にバレてるのにその名前に逆らえず、退散するナツ。ちらっと振り返って見たスティングは、ルーシィの後ろでしてやったりという顔だった。

オレは帰れ。
アイツには話がある。

――何かムカつく。

(……ルーシィの奴)
(何であんなのがいーんだよっ)

唇を尖らせながらも、仲間達のもとへと引き上げた。


「あのねぇ、私達ホントにそんなんじゃ」
「まぁ、今日のところは引き上げっかな」
「へ? あ、ちょっと……!」

面白いもんも見えたことだし、と手をひらつかせて去っていく。
背中が角を曲がるまで睨んだ後、耳まで真っ赤に赤面して顔を被った。

そういうのじゃない。
そういうのじゃない、のに。

『――十分お似合いだけど? あんた達』

ちょっと嬉しかったなんて。
この上なく、不覚。


***
Absurd Lovers:ゆーく様に書いて頂いたオフ会で盛大なスティナツルー布教活動の賜。

Big Negligent:この上ない不覚

ふっふっふ。
自己生産出来てないけど、我儘は健在なのだ!
でも布教活動用にスティルー書くって言ってるのは未だ進んでなかったり…^^;エヘ
うあーん!
スティングに「ナツさんの女?」発言させて欲しいってゴリ押ししたゆんを讃えたい。
ゆーくさん…っ!!!らぶっ!!!
ありがとうございましたーーーっ!!!


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