慣れ親しんだ喧噪。見慣れた顔触れと景色。
グレイはぼんやりとその光景を眺めながら視界の端でちらちらと靡く金糸に眉を顰めた。
心の奥をざわめかせるこの想いに気付いてから目に映る光景が以前とは全く違って見えて。
今まで気にも留めていなかった一つ一つの行動に、言動に、心が乱されて僅かな苛立ちが湧き上がる。
小さく舌打ちをして乱暴に置いたグラスの中で氷がからりと音を立てて、中身がないことを強調するように溶けた。
ふいにくすくすと愉しそうな笑い声が聞こえてきて、音の方へ視線を動かすとミラジェーンがカウンター越しに近付いてくる。

「気になるの?」
「……別に、そういうわけじゃねぇよ」
「本当に、仲が良いわよね」

ことり、と置かれた新しいグラスを受け取りながら投げやりに相槌を打てば、彼女は微笑ましそうにギルドの端へと視線を向けた。
ちらりとも顔を動かさないルーシィの隣でハッピーとナツはあの手この手で騒いでは振り向かせようとしていて、しばらくは我慢していたルーシィも唐突に立ち上がると持っていた本を乱暴に置いて一人と一匹を追い回し始める。

「……ガキか」
「ナツってばルーシィばかり構ってるからグレイと喧嘩することも少なくなったし」

楽しそうに話すミラジェーンの言葉を上の空で聞きながら視線は金糸の少女を追っていて、その細い腕が桜髪を覆う様子にざわり、と胸の奥が騒いだ。
小さな子供みたいにじゃれ合う光景はもうとっくに見慣れたはずなのに。
目が合う度恥ずかしそうに頬を染める姿が、もしかしたら特別な感情を抱いているのは自分だけではないような錯覚を覚えて心を掻き乱す。

「あら、寂しいの?グレイ」
「別に、そういうわけじゃねぇよ」
「……ふふ、寂しいなら寂しいって素直に言った方がいいわよ?」

にっこりと微笑んだ彼女は、新たに注文されたであろう飲み物をトレイに乗せると愉しそうに笑いながらカウンターを離れていった。
その後ろ姿を見送って、溜息ひとつ。

「……言えるもんならとっくに言ってるっての」
「…何を言うの?」
「あ?それはオマエ…―――っルーシィ?」

不思議そうに首を傾げたルーシィに思わず息を飲んで、らしくもなく動揺した声を誤魔化すように顔を逸らす。
平静を装って出したそれは思ったよりもぶっきら棒に響いて、うまく働かない思考に言葉が詰まった。

「なんで、ここにいるんだよ」
「なによ、いちゃいけないっていうの?」
「ちげぇって。お前向こうで本読んでただろ」

言い方が不服だったのか、あからさまに口を尖らせた様子に言葉を付け足せば、思い出したように頬を赤らめる。
一体何を思い出して恥ずかしがることがあるのか。
それでもその姿さえ可愛いと感じてしまう自身に呆れた。

「……ぐ、グレイの側で読みたかったのよ」
「静かに読みてぇなら家で読めばいいんじゃねぇか」
「―――っ…いいの、ここで読むから」

その方が見せ付けられなくて余程良い、なんて思いながらそう答えれば、ルーシィは耳まで赤く染めて。
小さく何かを呟くと、手元の本を徐に取り出して読み始める。
その横顔を眺めながらこのままずっとこの手が届く距離にいてほしい、なんて。
浮かんだ言葉はあまりにも独占欲が強くて、グレイは額を冷やすように顔を覆った。
深く吸い込んだ息を諦めるように吐き出して、揺れた黒髪をくしゃりと掻き混ぜる。

「……ねぇ、グレイ」
「なんだよ」

振り向くように視線を下げると同時に掴まれた左手。
何かを伝えようとする琥珀に息が止まった。
向かう感情に区切りを付けようとしたって、諦められないならばきっといつまでも変わることなんてない。
絡まり合う視線の答えはずっと、同じ気持ちの合図。


***
60000打を踏んで下さったナギハラ ミズキさまのカウンターリクエスト『両想いと気付かずナツにやきもきするグレイと好きなのに全然気付いて貰えなくてもだもだしちゃうルーシィ』です^^*!

長らくお待たせしましたどころではない程に遅くなりました。スミマセンスミマセン。
しかもグレイがへたれどころかウザくてどうしようかと。
色々と、ね。
きっとお気に召して頂けない個所は所々あるかと思いますが、ゆんの精一杯ってことで受け取って頂ければ幸いです。

リクエストって難しいなぁとしみじみ痛感しました。
でも!ネタ欠乏症なので素敵リク楽しく書かせて頂きました◎

ナギハラ ミズキさまのみお持ち帰り可。
60000hit本当にありがとうございました!!
そして、お誕生日(04/29)おめでとうございました!!!


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