ナツにだけ手作りをあげられなかったのは、意識しすぎたから。としか言葉に表しようがない。市販のものを買いに行くときだって妙なほどに浮足立ってしまって。足元はなぜかぐらぐら揺れるような感覚で、恥ずかしさで顔から火を吹いているのではないかと思ったほどだ。どれにしようかとか馬鹿なほどにバレンタイン特設スペースを右へ左へうろうろと歩きまわり。
一つ手にとってはこっちの方がナツは喜ぶかもしれないとか考えて。そんな考えを巡らせた自分に目まいを覚えた。
あたしはいったい、どんだけナツの事が好きなんだろうか。なんでこんなにたくさんのはちきれんばかりの思いに、今の今まで気がつかなかったのか。
甘い香りの立ち込めるその場所。ぐらつく思考回路とは真逆にルーシィの心のうちはもう完全に固まっていた。

あぁ、どうしようか。あたしは明日、ちゃんと渡せるのか。

手に持っている綺麗な包装の施されたそれはギルドの誰にあげるものとも違う。自分でチョコレートをつくっていた時間なんかよりも、多分ずっと多い時間がかかって選ばれたそれ。

どうしようもなく、あたしは、ナツが、好きなんだ。

そう自覚したのは、今からちょうど一か月前の話。



だってそうだろ


一カ月がたった。悶々と思考回路がまとまらいまま、なんとなく一カ月もたってしまっていた。ルーシィの事を好きなんだと、自覚してしまってから一か月がたったのだ。正直、自分にはこの感情がいいものであるのかどうかが分からない。ルーシィといるのは至極楽しいし、ルーシィが隣にいるのは今ではもう当たり前の事だ。好きという感情は、難しすぎる。ただその好きというやつがもし食べ物だとしたら、きっととんでもなくまずいんだろうなぁと漠然と思った。だって今、オレはこんなにも苦しくて辛いから。

「ルーシィ、これ」

グレイの声に、というよりはルーシィという単語に反応して振り返ればグレイが青っぽい綺麗な紙袋をルーシィに手渡している最中だった。それを受け取ったルーシィが、にこりと満面に微笑んで「ありがとう、グレイ」と優しい声でオレじゃない名前を呟き空気を揺らしたことに無性に腹が立った。気がつけば立ち上がって、ルーシィの腕を引っ張っていた。
がしゃん、とグレイが手渡した袋が落下する音と、ルーシィの「ちょ、ナツ…!」という怒気の含んだ声が自分の鼓膜を揺るがしたことに満足する。なんだこれ、オレ、何がしたいんだろう。
ルーシィに近づくグレイが嫌だった。グレイがルーシィの名前を呼ぶのが嫌だった。グレイがルーシィにホワイトデーの返しをするのが嫌だった。ルーシィがグレイの名前を呼ぶのが嫌だった。ルーシィがグレイに笑いかけるのが嫌だった。ルーシィがグレイからホワイトデーの返しを受け取るのが嫌だった。ルーシィがオレの名前を呼ぶのが、どうしようもないくらいに嬉しかった。

(あぁ、なんだよ、俺)

急に立ち止まれば、背中にルーシィが突撃してきた。
「んぐっ!」
可愛らしくもない悲鳴をあげた金糸のルーシィは息もきれぎれに自分を見上げていた。

「も…あ、あんた…なんなのよ、急…にっ…!」
「なぁルーシィ」
「…な、なによっ……!」
「オレ、」

言葉を紡ごうとした瞬間、思い出す。オレは、バレンタインに、手作りをもらえなかった。
オレだけ、貰えなかったのだ。その事実が、自分の気持ちを気付かせた哀しい事実が、自分の紡ごうとする言葉を思いとどまらせる。ただ一言なのに。たったの、一言が。

「……なに?」
ルーシィが言葉を促して、ごくりと思わず生唾を飲み込んだ。
「ナツが真面目な顔とか!似合わなさすぎて!」

ごめん、と一言つぶやくようにそう言って、ルーシィはオレの目の前でくすくすと笑い始めた。その顔が、どうしようもないくらい、ルーシィで。

「オレ、来年は手作りがいい」
「急になによ」
「オレだけ仲間外れなんてずりーだろ!」
「アンタ、そんな事言うためにこんなとこまで引っ張ってきたの!ばか!ふざけんな!あたしの体力返せ!」

罵詈雑言を甘んじて受けながら、思わずへらりと笑った。ルーシィには何笑ってんのよ!とヒールで蹴られたが、すげぇ痛かったが、それでも笑えて来るくらいに自分の答えに満足していた。

来年は手作りをもらおう。そしたらこの言葉が言える気がする。
来年貰えなくったって、その次の年に貰えば別にいい。

だってそうだろ、君の隣には、たぶん絶対、オレがずっといる。


***
サカサマサマーサイダー:さまーさいだー様よりホワイトデーDLFをちゃっかり頂戴致しました。

バレンタインデー`気づいちゃったよ`の続きだそうで、律義にお返しをするグレイとお返しすっ飛ばして来年のバレンタインのリクエストをするなっちゃんがらしくて微笑ましかったです。

手作りより想いの籠ったチョコに気付くのはいつ?
素敵なホワイトデーをありがとうございましたーーーっ!!!


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