最近ついてない。
むしろ何か憑いてると言われたほうが納得するくらいだ。
楽しみにしてた買ったばかりの本を水路に落としただとか。
下ろしたての服でカフェへ行ったら隣の席で別れ話が始まって、巻き込まれてジュースを引っ掛けられただとか。
花屋の前で散歩中の犬に飛び掛かられて、バケツに入ってた水を引っ被ったりだとか。
それによって風邪でもひきかけてしまってるのか、調子もイマイチで。
仕事でもミスをして、自分のせいで報酬が減らされたりだとか――
――ここまであれこれ重なると、もういっそ動きたくなくなる。
「よー、ルーシィ」
ベッドの上に座り込んで毛布に包まってたルーシィの耳に聞こえてきたのは、すっかり馴染んでしまった声だった。
上がる許可なんか取る気もなく勝手にひとの部屋へ入ってきた彼は、ルーシィの格好を目にするなり訝しげに眉根を寄せた。
「なにやってんだソレ」
「……おなか」
「ぁん?」
「気持ち悪いの……」
最近のストレスが限界に来たのか、せっかくの休日だというのに朝から体調が最悪だったのだ。
毛布越しに膝を抱えたルーシィの前に立って、顔を覗き込む角度でナツが口を開く。
「薬とか飲まなくていーのかよ」
「飲んだわよ、一応……ロキがもらって来てくれたし」
「……、ロキ?」
「うん。相変わらず計ったみたいに出てくるっていうか……
色々世話焼いて、さっき帰ったけど」
ルーシィの返事になぜだか口をつぐんで、ナツはテーブルに置かれた真新しい袋に視線を留める。
「あ、――それはグレイが持って来てくれたの、」
ショックのあまり零してしまった嘆きを、憶えてくれてた、ようで。
ちゃんと治ってから読めよ、と見舞いに置いていったそれは、先日、水没させてしまったのと同じ本だった。
「…………」
「とにかくね、二人にも言ったんだけど、あっためてたら治まると思うから。
アンタも今日は相手してあげる余裕ないか……ら、っ!?」
それまで黙って聞いてたナツが唐突に、ばさ、と毛布を取り上げる。
――だから帰って、と続けかけた言葉は、声にならず飲み込んだ。
「な、なに……っ」
とっさに毛布を取り返そうとルーシィが手を伸ばす、より先に。
熱いくらいの温度に腕をつかまれ引っ張られた勢いで、ぽふんと彼の肩へ顔を当ててしまう。
「う、ぇ?……え、……ちょ、……?」
思考が追いつかないまま、くるりと身体の向きを変えられて。
さっきまでルーシィが座り込んでた位置に代わって座ったナツの脚の間に抱え込まれる、形で。
ぎゅう、と背中から前へまわされた両腕に絡みつかれた。
「ちょっ……と、……ナ、ツ?」
「――……てやる」
「ふぇ?」
「あっためててやる、つってんだ」
「は、……」
思わず呆けた声を出してしまったけれど。
どうやら本人は、至ってマジメにそうしてる、ようで。
そしてその言葉通り、確かにそうされてるのはあったかいのだ。
おなかを覆った手のひらも、背中に感じる体温も。
ずっと続いてた気持ち悪さなんて忘れてしまうくらいに、
ずっと下がってた気分まで、落ち着いてしまうくらいに。
「――――……」
とくとくと重なる、二人分の鼓動も――
ゆるく首を振り返らせれば、びっくりするくらい近くに見慣れた顔があって。
まるでナツの体温を移されたみたいに頬が熱って、すぐ前を向きなおした。
「……なんか、……ずるい」
「あ? なにが」
「……なんでもないわよ、ばか」
「変なヤツだな」
間近で返された声は、どこか愉しそうな響きで。
ぎゅうぎゅうと隙間なんかないくらい、抱き締められてしまってるのに。
それはだけど、苦しくない力の加減だったりもして、
(だってこんなの、……こんなんじゃ、)
アンタだけは帰らなくていいって、
――帰って欲しくないって。
思うしか、ないじゃない――
触れてていいのは体調が治るまでだから、なんて言い訳は。
結局一日ずっと、口にできなかった。
***
コンペイトウ*プラクティス:ナギハラ ミズキ様より頂戴致しました。
グレルラバーなナギさんが…!!!
ゆんの為だけに書いて下さるナツルが幸せ過ぎていろんな気持ちの末顔面覆ってぐりんぐりん頭振る程嬉しかったです。
ナギさんのグレルも勿論当然大好きですが、レアなナツルもやっぱり大好きですvv
不運なルーシィを包み込む無自覚独占欲丸出しなっちゃんが愛おしくて仕方がありません。
もうもうナギさんらぶ!!!
大好きですー!
ありがとうございましたーーーっ!!!
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