バレンタイン。

好きな女の子が好きな男の子にチョコレートと共に愛を伝える日。
でも妖精の尻尾では前者はもちろんの事、それと感謝を伝える日という括りがされているようで。だったら、とルーシィは自宅でチョコレートを作り始めたのだ。

(みんな、喜んでくれるかな)

エルザ、グレイ、ウェンディ、レビィ、ガジルにシャルルとハッピー。
順番に渡す相手を思い浮かべそしてナツを思い浮かべた時、思考がフリーズした。不安になったのだ。ナツが喜ぶのかどうか。何故か無性に心配になった。そして急に自分のかき混ぜるそれに甘味が増したような錯覚を覚えて。

それに気付いた。

思わず顔が蒸気する。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいっ……!!
心の中で幾度となく繰り返しそう叫びながらルーシィはボールの中でとろけるような甘い香りを放つそれを今しがた気付いたこの思いがかき消えないだろうかと必死にかき混ぜる。
なんてあたしは馬鹿なんだ。馬鹿馬鹿しすぎて自分に涙さえ出てくる。
なんでこんなタイミングで気付いた。こんな、愛を伝える日の前日に。最悪すぎる。最悪すぎて悪態しか出てこない。「あぁあっー!!」

忘れたい感情を忘れられず、せめて発散するかのように。ルーシィはみんなに配る筈にと作っていた甘いチョコレートをがしゃがしゃと乱暴にかき混ぜだした。


気づいちゃったよ



「ルーシィ手作りなの??すごい、頑張ったじゃん」
「でしょー、大事に食べてよカナ!!」

甘い匂い漂うギルドをみんなににこにことチョコを渡して歩くルーシィをバレないように横目で見ながら、ナツは思わず体を強ばらせていた。
いつものように何やってんだー??と近づいて、彼女の手から勝手気ままに奪ってしまえばいいのに。意識すると、それが出来ない。
別にオレはチョコなんて欲しくねぇ。
と自分自身言い聞かせてみるけど、どう考えても嘘で。だから。
欲しい、素直に思った。
あらかた渡し終えたのか、ルーシィは鞄の置いてあるナツの隣の席に戻ってきて。渡そうにも本人不在で余ったらしい彼女らしく器用に包まれた包装紙をカウンターに乗せた。

「全員配ったのか??」
オレはまだ貰ってねぇんだけど。
続く言葉は飲み込んで。「え、えっと……、レビィちゃんは昨日から仕事みたいでいなくて、あ!!あとガジルも仕事だって」
「ふーん」
「……」
「……」
「……ナツ」

ぽつん、と呟かれた自分の名前に、勢い余って顔を上げればそこにはルーシィが包装紙を持っていて。

「……はい」
「お、おう」

顔を背けられながらぶっきらぼうに手渡されるそれを短い返事の言葉と共に受け取った。
受け取った包装紙を指で撫でていて、ふと気がつく。
銀色の、シール。
それはマグノリアで知らない人がいないほどに有名な洋菓子店のシール。で。それは例外なくナツも、知っていた。
だがさっき、ルーシィはカナに手作りを渡していて。
「ルーシィ、これもしかして買ったのか?」
「そ、そうよ!!あんたの分だけ、足りなかったのよ!!」

横を向きながらそう叫ぶ彼女を見ながら、なんでと心で呟く。

「じゃあそっちくれよ」
意地になって、ガジルやレビィにと彼女が包装したいくつかの手作りのそれに手を伸ばせば。

「だ、だめっ!!」

先ほどより大きな声で叫んだルーシィの、同時にでた手にナツの手は払いのけられ、その後すぐにルーシィはその場から逃げ出してしまった。

みんながわいわいと手に持つルーシィが渡した手作りチョコを恨めしく見てから、残されたルーシィに貰った買われたチョコレートを一瞥する。
なんでオレだけ。買ったやつなんだよ、と思う一方、自分にも疑問が生じていた。
でもなんでオレはルーシィの手作りが欲しかった?オレだけ買ったやつが嫌だとか、前のオレならきっと思わない。ただ単に、今日オレはルーシィの手作りのそれが欲しかった?

だから、それは、なんで。

そこで思考回路が一旦停止し、そして急に自分の持つそれに苦味が増したような錯覚を覚えて。

それに気付いた。

思わず顔が蒸気する。
ありえねぇ、ありえねぇ、ありえねぇっ……!!
心の中で幾度となく繰り返しそう叫びながらナツは手の中で自分の熱気を気づかせたそれを離せばかき消えるのではないだろうかと勢いよく手放した。

なんてオレは馬鹿だ。馬鹿馬鹿しすぎて自分に怒りさえ覚える。
なんでこんなタイミングで気付いた。こんな、愛を伝える日に。最悪すぎる。最悪すぎて悪態しか出てこない。

「つっ……!!」


買ったのが嫌だったんじゃない。手作りが欲しかったんじゃない。ルーシィの思いが入ったものが、欲しかった。求めていた。

そうだ、オレは。


***
サカサマサマーサイダー:さまーさいだー様よりバレンタインDLFをちゃっかり頂戴致しました。

ふたり同じ日に気付いて慌てる様がなんとも初々しく愛らしくてのわーと顔面覆い隠してにやけちゃいました。
義理を強調したかったかのようにナツだけ特別扱い(既製品)なのにそれがまた特別感があってにたにた。
ルーシィが恋する乙女全開で可愛過ぎて、なっちゃんが思春期男子全開でどうしようか。
可愛過ぎる。
このお話はホワイトデーに続くらしく、今からホワイトデーがとっても楽しみ!

素敵なバレンタインをありがとうございましたーーーっ!!!


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