真剣な瞳。射抜くような鋭い眼。
唐突に放たれた一言。
それは―――過ぎ行く平穏な時を止めるには十二分だった。
響く声に強調される空間―――部屋にはふたりだけ。
「な、に…言って…」
抑える間もなく熱くなっていく頬を隠すように俯いて。
見えないように後退りする。
「い、意味…わかんないんだけど…」
普段とは明らかに異なる低い、掠れた声。
身体中の血が逆流するようにどくん、と脈打った。
「俺に、ルーシィくれよ」
静かに、強く繰り返される言葉は冗談などではなくて。
真剣さを帯びた眼は怒っているようにすら見える。
言葉の持つ意味に、困惑して。
真っ直ぐ、近付いてくるナツからじりじりと離れて行った。
「あ、あげ、られない、でしょ……だ、第一…ど、どうやってあげるのよ」
顔を上げれば絡まり合う視線から逃れるように。
一歩ずつゆっくりと後ろへ下がって。
とん、と突き当たった壁へ身体を預ける。
小さく息を吐いてそろり、と顔を上げれば。
一瞬、驚いたようにその瞳が見開かれた。
「へ?」
その表情に釣られるようにぽかん、と口を開けて。
鼻先が当たる距離まで詰め寄るその行動をまるで他人事のように眺める。
「どうやって?」
覗き込むように視界いっぱいに広がる真剣な眼差し。
思わずこくり、と息を呑んで。
どきり、と跳ねた心臓の音を誤魔化すように顔を逸らした。
「ち、近い、から…と、とりあえず離れて」
必死に紡ぎ出す言葉。
朱に染まる白い肌。
弱々しく押し返す掌に倣って離れていく。
「いったい、なんなのよ」
安堵に混ぜて溜息を吐き出して。
じろり、と睨んで問い詰めれば。
「だってよ、ルーシィはルーシィだろ」
「あ、たり前…でしょ」
「だから、俺にくれよ。他の奴らとチーム組んだりすんなよ」
拗ねたように逸らされる視線。
不服そうな態度。
「…あんた、絶対意味わかって言ってないでしょ」
胸の高鳴りが無意味だったことを悟って。
ひくり、と眉を顰めた。
「なんだよ、意味って」
首を傾げるその様に盛大な溜息を吐いて。
くらり、と痛む額へ押さえるように指先を乗せる。
「なんで…ナツにあげるのよ」
「ルーシィが、俺たちじゃない奴らと仕事行くのは嫌だから」
むす、と不機嫌そうに口を出た言葉は独占欲を示すもので。
思い当ることはひとつだけ。
「…紛らわしいのよ」
「あん?」
小さく吐き出した悪態に反応するように桜色がふわり、と靡いて。
交わる視線の先に心配そうに翼を羽ばたかせる青い仔猫が映った。
「ハッピーが迎えに来たわよ」
肩を揺らして嘆息する。
くるり、と向けられた背に小さく微かな吐息を乗せた。
窓際に向かうナツの身体がぴくり、と一瞬止まって。
振り向いた笑顔に笑みが零れる。
心配しなくても一緒にいるわよ―――。
fin.
***
《05.26-07.04*拍手お礼》
misleading:[形]〈言葉などが〉人を誤らせる, 誤解させる, 誤解を招くおそれのある.
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