絵本の中の物語。
想い出の中の温もりがそっと浮かび上がる。
掌に残る感触は消えていって。
記憶の中の陽溜まりはきらきらと輝いて。
いつまでもいつまでも降り積もっていく想い出の欠片。
夕焼けに染まる空を眺めながら目を細めて。
買ったばかりの本と食材を抱え直した。

「ルーシィ?」
「何やってるのー?」

陽気で呑気な二人組が少し遠くから声を掛けてくる。
ゆっくりと声の方へ振り返ればぴたり、と目の前で立ち止った。

「ナツとハッピーこそ」
「オイラたちはこれからルーシィのとこ行くところだよー」
「また勝手に…」

悪気のない様子に溜息交じりで呆れても。
全く気にする風もなくナツは満面の笑みを浮かべる。

「ちょうどよかったじゃねぇか」

これから帰んだろ、と無邪気に笑って。
後頭部を抱えていた両腕を崩して。
荷物を持っていない方の手を当たり前のように繋いだ。

「もう、まさか夕飯作れってんじゃないでしょうね」

半ば諦めてじろり、と睨みながらそう問えば。
きょとん、と一瞬だけ眼を見開いて。
ゆっくりと上がっていく口許が、当然とばかりに愉しそうに笑みを描く。
たまに思い起こす遠い過去。
感傷的な気持ちも全部。
誤魔化して笑顔にした想いも全て振り払うように笑えば。
いつも素直になれない溢れる感情を乗せて。
釣られるように笑顔にしてくれる温かさがどこまでも心強く感じた。

「早く帰ろうぜ」

ぎゅぅ、と握られた掌は熱くて温かくて。
力任せに引く腕を追いかける。
腕の中にはちゃっかり羽根を休める青い仔猫。
繋いだ掌の先で揺れる桜色。
こんな日を幸せと呼んで。
大切な一日を今に残して想い出の中に続けよう。


いた


fin.
***
珍しくナツルーハッピー。


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