夕暮れの風が冷たく肌を撫でる。
ぼんやりと水面を眺めながら堤防に座っていると軽い口調が降ってきた。

「良く会うね」

片手に本を携えて、にっこりと微笑む姿は無邪気で。
落ち着いた雰囲気を纏う空気が違和感を与える。
それでも見上げた先の彼は当たり前のように隣へと腰を下ろした。

「何見てるの?」
「…別に」

視線を河へと移して、ゆっくりと問いかける様はあの世界で出遭った姿とは似ても似つかない。
それなのに、上機嫌に指を振る仕草やポケットに手を突っ込んだ姿勢が全く知らない人ではないことを強調するように存在感を醸し出す。
不意に甦った過去に溜息一つ。

「遊園地、とか…好きだったりするの?」

脳裏に浮かんだ光景を意識したと同時に口を突いて出てきた言葉。
違う、とわかっていながらもエドラスとアースランドはどこか同じであるような気がして。
例えば、性格や話し方が異なっていようとも根本に抱く想いは違わないのではないかと思えてならない。
そんな淡い期待を少しだけ滲ませて問いかければ、彼は驚いたように眼を見開いた。

「…スッゲェ」
「は?」
「なんでわかったの?」

零れ落ちた声は探るような色を滲ませて真っ直ぐに瞳を捕える。
その視線を受けて、知らず言葉を飲み込むと上手く動かない首に意識を集中させて。
なるべく自然にみえるように瞼を閉じた。
見透かすような瞳は心を動揺させて、逸らした視界の端がやけに気になる。

「前に…会ったのよ」
「会った?誰にだよ」
「…ううん。なんでもない」

過ぎ去ったことに拘ることはなんだか違うような気がした。
例えば、この世界に魔力がなくなるとしたら、何かが変わるのかもしれない。
けれど、そんなことを考えて何になるのだろう。
ルーシィは緩く首を振って立ち上がると、スカートの皺を伸ばした。

「とにかく、この街初めてだなんて嘘ついて付き纏うのはやめてよね」
「…へぇ、いつ気付いたの?」
「最初から。おかしいと思ったのよ」

呆れ交じりに溜息ひとつ。
注意するように指を揺らして振れば、彼は愉しそうに口許を綻ばせる。

「妖精の尻尾の人間だってわかってて声かけたんでしょ」
「うん…そうだよ」
「何の用?」

訝しげに視線を下げれば、貼り付いたような胡散臭い笑顔が綺麗に歪んだ。
同時に、背筋に走った悪寒が危険を知らせる。

「いいね、話が早くて。実は…―――」
「ルーシィ!!!」
「え…ナ、ツ?」

紡がれた言葉が届く前に、勢いよく身体を引かれて。
まるで庇うように桜色が靡いた。

「お前、なんだ?」

怒気の含まれた声と視線にくすりと笑みを零して。
子供のように無邪気に笑ったかと思えば、突然の無表情。
そうして涼しげな笑みを浮かべて、ゆっくりと真横を通り過ぎる。

「続きはまた今度ねー」

ひらひらと振られた掌と軽い口調。
離れていく後ろ姿は暗く滲む夕陽に溶けていった。


***
ヒューズ祭へ出展したけど、何をどう思ったのかナツルへと転んでいく罠。
そして無駄に続き設定になってしまったのが心残り。
この続きはいずれ。余裕が出来たら…多分。


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