「君と契約する前の僕みたいだ」
「え?」
「ジャック・オ・ランターン」

オレンジ色の明かりを灯す悪戯顔のパンプキン。真っ暗な部屋でその頼りなく温かい明かりだけが互いを照らした。ルーシィの白い肌が淡くその色に染まっていて、ロキは小さくキスを落とす。

「ん、くすぐったい」
「ごめん。つい」
「もう…」

降り注ぐキスの雨に腕に乗るルーシィの頭がいやいやと身動いだ。ロキはさしてその気もないように謝ると最後に、と言わんばかりに額にキスを落とす。ルーシィはロキの胸に、その額を押し当てて顔を隠してしまった。

「僕みたいって」
「ん?」
「ジャック・オ・ランターン。僕みたいって。」
「ああ。うん」

自分の胸に埋まった頭を優しく撫でながらロキは言葉を紡いだ。ルーシィは目を閉じて、ロキのその声だけを聴く。

「ジャック・オ・ランターンっていうのは生前に悪行を犯して天国にも地獄にも行けなくなった人がかぼちゃに憑依して彷徨っている姿なんだってさ」
「初めて聞いた。…それがロキに似てるの?」
「うん、だって」

美しい金糸の髪をとく指にこもる愛しさや熱さや恋しさ。それらが声になってしまったかのように喉は震えた。

「僕はずっと帰る場所なんてなかったから」

ルーシィの肩がわずかに跳ねた。名前を呼ぶとゆっくりと顔をあげて、大きな瞳がジャック・オ・ランターンの明かりによってきらきらと輝いていた。

「星霊界に帰れず、人間界でただ死を待っていただけの僕を、君は導いた。こんなにもあたたかい世界に」
「ロキ」
「どんな言葉でも足りないくらい感謝してる。感謝って言葉すら軽く思えてしまうくらい、君に伝えたい気持ちが溢れてくる」

髪をといていた手をそのままルーシィの濡れた目元へと寄せる。煌めく瞳に映るのが自分であることの幸せを噛み締めずにはいられなかった。

「ありがとう、愛してる」
「…うん」
「ほんとは足りないんだ」
「ううん、伝わってるよ」

瞬間触れた感触にロキは呼吸を忘れた。何度も何度も触れた唇なのに、初めて触れてくる柔らかさは別物みたいだった。ルーシィからの初めてのキスはほんの少ししょっぱかった。

「言葉だけじゃない。こんな風にロキがやさしく私に触れるから、そのたびに私、泣きたくなるくらい幸せになる。ロキが私を大切にしてくれていることすごく感じるの」

ロキの頬を撫でたルーシィの手に、ひたりと雫がのった。見つめたロキの顔は暗くて少し見えずらい。明かりに背を向けていることに、ロキはこのときばかりは感謝した。ルーシィは気付かないふりをしてふわりと笑った。

「愛してるよロキ。私のそばにいてくれてありがとう」
「…うん。ルーシィ」
「もう、くすぐったいって言ってるのに」

ルーシィの額に落ちた二度目のキスは照れ隠しだった。懐かしい香り、柔らかい肌、愛しい温度。ひとつひとつを大切に感じながらふたりはキスをする。触れるすべてからこの気持ちが伝わりますようにと願いながら。


Jack-o'-Lantern

彷徨いと導きの灯火


***
理由:久遠様よりはっぴぃはろうぃんを頂戴致しました◎

天国にも地獄にも行けなくたってルーシィがいること、それだけがすべて。
そんなロキとルーシィにきゅぅんてなります。
甘いのに切なくて、切ないのに暖かい。

素敵過ぎるはろうぃん御馳走様でしたっ!!!


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