叩かれた胸が疼いて、胸が痛む。
辛そうに、悲痛を交えた嗚咽が耳に響いて。
ずっと不安な思いをずっと抱えていたのだと知った。
滲んだ遠い過去の自分を投影させて。
出会った頃の楽しそうな笑顔が霞む。
「ルーシィ」
夜の空を眺めながら好きだと言っていた星を追いかけて。
仰いだ先には明かりが灯ったルーシィの部屋。
ひょい、といつものように軽やかに窓を開ける。
「ナツ?」
部屋へ入った途端に視線が交わって泣きそうな瞳が揺らいだ。
「一人で泣くなって、言っただろ」
ぎり、と奥歯を噛みしめて圧迫される心臓に息を止める。
聞こえるのは微かに漏れる吐息。
零れた笑み。
「大丈夫…ありがと」
儚げに揺らぐ金糸がやけに細やかに見えて。
思わずその白い腕を引き寄せた。
「ナツ?」
ぽすん、と軽い音と共にナツの胸に押し込められて。
不思議そうに首を傾げれば。
「ナツの方が、泣きそうじゃない」
苦しげに歪められた表情に微笑み返す。
ふわり、と掠める石鹸の香り。
水に濡れて混ざった甘い匂い。
小さく息を吐いて。
「…泣かねぇよ」
抱き締めた肩に額を擦りつけて。
確かめるように何度も何度も抱き締め直す。
「ナツ?」
少しだけ押し返された感触を打ち消すように力を込めて。
「んー…まだ、もうちょっとこのまま」
甘えるような声。
泣きそうに震える吐息。
心細げに触れてくる指。
まるで幼子の仕草にくすり、と笑みが零れた。
「大丈夫よ…ずっと、ここにいるから」
もういなくなったりしないから、と小さくあやすように繰り返し響くルーシィの声は魔法みたいで。
おずおずと回された腕にほっとする。
「当たり前だろ」
強く言い切って。
更に力を込めると苦しげな声が漏れた。
確かめ合う温度が心地良い。
聞こえる鼓動の響きの中、少しずつ不安が融けていく。
感じたい、少しでも近くで…―――。
融けてなくなるまで―――。
fin.
***
《05.07-05.26*拍手お礼》
magic:魔法,妖術.奇術.手品.まやかし.トリック.
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