笑っていると安心する。
泣いていると胸が苦しくなる。
心臓が掴まれたように息苦しくなって―――。
この感情をなんていうのかなんてそんなことはどうでもよかった。
「泣くなよ」
むす、と口を尖らせてそう一言。
目の前のルーシィは困ったように眉を下げて苦笑した。
「あんただって泣くじゃない」
「俺はいいけどルーシィはだめなんだって」
当然のことのように言い放ってごろん、とベッドに横になる。
その様子に困惑しながらもくすり、と笑みを零せばナツが怪訝そうに起き上った。
「なんだよ」
「まったくもう…無茶苦茶なんだから」
「あい、それがナツです」
びしり、と腕を上げるハッピーを抱きあげて、ベッドの端に腰掛ける。
不法侵入はいつものこと。
家主よりも先に窓から侵入して、勝手にトレーニングをやっているのもいつものこと。
そんな一人と一匹に紅茶を出してついうっかり相手にしてしまうのも、いつものこと。
―――ただ今日は少しだけいつもと違って。
不法侵入せずに扉の前で帰りを待っていた見慣れた桜色と青い仔猫。
首を傾げて近付けば、顔を上げたナツが涙の匂いがすると言い出した。
その言葉にぎくり、と身体を強張らせれば強い瞳が探るように近付いてきて。
「泣くな」と言い放たれる。
ギルドからの帰り道に仰いだ空があまりにも鮮やかな夕焼けで。
遠い過去を思い出した。
ひとりきりで見上げた空はどこまでも広く、どこまでも自由に見えて。
空は青く、次第に紅く染まって―――夜は暗闇に光を照らして星が願いを叶える。
今ある幸せに過去を投影して。
置いてきた大好きな家族を思い出して。
去ってしまった愛する人を思わず願って―――涙が溢れた。
毎日が楽しい今を伝えたかった。
大好きなギルドを紹介したかった。
毎日綴る手紙は伝えきれない寂しさを紛らわせて。
同時に募る想いが零れ落ちる。
(かなわないなぁ…ナツには)
見透かされた気がして驚いて。
不思議に擽ったい気持ちに心が穏やかになった。
頬が緩んで目を細めると釣られるようにナツが笑う。
「お。やっと笑ったな」
「ルーシィさっきから笑ってるよ?」
「そうかぁ?さっきから泣いてたろ」
「ふふ、ありがと」
腕の中の仔猫を一撫でして、瞼を閉じて。
封じた想いに鍵を掛けた…―――。
turn the key
in the lock
fin.
***
turn the key in the lock:錠をおろす。鍵をかける。
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