『ここがおまえの帰る場所だ』


あの時、仲間なんだと認められたことを実感して、本当に嬉しかった。

その後も色んなことがあって、その度にナツやチームの皆と力を合わせて乗り越えて来て。


なのに……。


「なんで、あたしが運ぶと酔う訳! てか、これってあたしの役!?」


ナツがあまりにも辛そうだから、先をいくエルザ達に追いついてハッピーに託そうと思っていたのに。

なんで、といつもの事ながら思うけど、相変わらず乗り物で移動して酔ったナツを運ぶのはあたしの役目にされていて。

あたしの発言を見事にスルーした皆の姿は既に見えなくなっていた。


「待ってくれてもいいじゃない……」


それにしても、納得出来ない。

不法侵入した時だって。あたしが怒るといつも仲間だから、の一言で片付けている癖に。


「……だったら酔わないでよ」


当たり前のようにナツから返事はない。

ため息をついて、ギルドへ戻るだけだからと開き直り、歩くスピードを緩めた。





「ふう〜。さっぱりしたぁ」


あの後、ナツを半ば投げ出すようにギルド置いて、荷物をグレイから受け取り、疲れたから、と帰って来た。

それでも汗ばんだ体をさっぱりさせたくて、お風呂に入り、漸くベッドに寝転んだ。

時計に目をやると、時刻はまだ7時にもなっていない。眠くはないけど、体を休めたかった。


「……今日は来ないわよね」


うつ伏せに体勢を変えて、ギルドで伸びていたナツを思い出す。

あの様子じゃしばらく復活はしないだろう。

――家で休ませてあげれば良かったかな。

「って、そうじゃなくて!何考えてるんだろ、あたし……」


今日はゆっくり小説を書けると思えばいいじゃない。

でも、布団が気持ち良すぎて起き上がる気にならない。

このまま眠るのも有りかな、と考えて仰向けになる。


「ん―…気持ちいい」


仕事も終わったし、今月の家賃を気にする事もない。

寂しく感じる必要はない。

心地よさに軽く目を閉じ、大きく伸びた後、ゆっくりと目を開けた。

途端に視界に飛び込んできた桜色に、ギョっとして飛び起きる。


「よぉ、ルーシィ」


目の前でナツが顔を覗き込んでくるから、


「不法侵入―ー!!」


渾身の回し蹴りでナツを床に沈めた。

条件反射って恐ろしい。


「なんで、ここに居るの!?」

「痛ぇ、だろが。まだフラフラするから休みに来たのによぉ」

「なら、ギルドで休めばっ……ったく、しょうがないわね。ほら寝なさいよ」


返事も聞かずに、ヨロヨロとベッドに潜り込むナツが子供みたいに見えて、くすりと笑ってしまう。

結局、あたしがナツに弱いって事を一番分かってるのは彼なのかもしれない。

大切だと、いつから思い始めたのか分からない。気付いたら、ナツと一緒にいるのが当たり前になっていて。

今も。辛いはずの体を推してまで来てくれたのが嬉ししくて、少しくすぐったい。

悔しいから絶対に言ってあげないけどね。


そんなことを考えながら、ナツに視線を向けると目が合って――


「ルーシィ」


気付いたら真剣な表情でじっと見つめられて、不覚にもドキっとした。

こういうのはやめて欲しい。天然故の行動と分かってはいても、心は勝手にナツを意識してしまうから。

だからこれは違う、と自分に言い聞かせなきゃならくなる。


「何、よ」

「なんで先に帰ったんだよ」

「……疲れてたからよ。誰かさんを運んでたからね」

ってか、一緒に住んでる訳でもないのに先に帰るも何もないじゃない。

そう返せば、仲間なんだから水くさいこと言うなよ、だ。


「仲間だからって……」


ナツから仲間だと認められていない、とは思わないけど。

馬車+列車+あたしとか…何?

こう何度も盛大に酔われてはさすがにへこむ。


「何よ、仲間だったら酔わないって言ってたのに。あたしだってナツが辛そうだから、ハッピーに頼もうとしてたんだからね。それを……もう、知らない」


自分で思うよりもずっと気にしてたようで、なんだか拗ねた言い方になってしまった。

「何拗ねてんだよ、つうか…知らないとか言うな。傷つくだろ」

「あたしがね!」

「……だったら、知ってくれよ」

「何を、よ」

「なんで、ルーシィに酔うのか」

「え? どういう意味――」


ナツが、頭をガシガシと掻いて、ベッドから起き出しあたしの腕を掴んで。そのまま引き寄せられた。

いきなりの状況に頭がついて来ないのに、心臓は高鳴り、息が出来ない。

抵抗しようと思えば、出来るはずなのにそれも出来なくて。

ナツに抱きしめられるのがこんなに心地いいなんて。


「ルーシィは、特別だ。他の誰とも違うんだ。だから、なんつうか……」


ナツがあたしを抱く腕に力を入れて、耳元で「分かれよ」と呟くから。

本当に勘違いじゃないと教えて欲しくて。


「分かんない、わよ。はっきり言ってくれなきゃ……」



ナツの背中に手を滑らせてそう言うと、ナツはぴくりと肩を揺らした。

そして抱きしめていた腕をほどいて肩に手を置き、戸惑う気配を見せながら、それでもはっきりと。


「――好きだ、ルーシィ」

「ナツ…。仲間だからじゃないの、よね?」


彼の瞳の鋭さに、嘘は見当たらない。

けれど、どうしても聞いてしまう。



「おまえ、楽しんでないか? ……だから、好きなんだよ、好きだ、好きって事。ずっと一緒に居たい。好きだから」

「わ、分かったからそんなに連呼しないでよ……」


胸がいっぱいで、じわりと涙が溢れてくる。

どうしよう、すごく嬉しい。

ナツの頬がほんのりと色づいている。きっとあたしも同じように赤くなっているに違いない。


「だから、おまえに酔うんだ」


ナツは笑って、乱暴にあたしの涙を拭ってくれた。

早く聞けばよかったのかな。

でも、拗ねて素直になれないあたしにはそれは難しい事で。

その分、ナツが歩み寄ってくれた。

だから、今度はあたしの番。


「あたしも、ナツが好き……」

「ルーシィ――…」


ゆっくりとナツが近づいてくるから、そっと瞼を閉じると唇に柔らかい感触が触れた。

目を開けると、照れくさそうに笑うナツが居て。

恥ずかしくなって、ナツの胸に顔を埋めると、さっきよりも強く抱きしめられた。


***
Hangout:トム様より5000hit記念兼90000hitお祝いに頂戴致しました◎

DLF期間中にDL出来なかったゆんの為に…!うあん。ありがとうございます!
そういえば、くったりしたなっちゃんを運ぶのはいつもルーシィですよねv
エルザとグレイがしれっと置いていく(忘れていく)中、ちょっとぉ、とか言いながらナツを担ぐルーシィ。
あの場面を観る度にルーシィ力持ちだな。といつも思います。

そして、告白し合うナツルーにくあっ!てなりました。
かーわーゆーいー。
すきだすきだすきだ。
ルーシィが好き過ぎて言葉でいくら言ったって足りないくらいルーシィ大好きななっちゃんが愛おしくて堪りません。
更に甘くて甘くて蕩けそう。しあわせ。

この度は、5000hits本当におめでとうございましたーーーっ!!!
これからもずっとずっと応援してます!だあいすきっ!!


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