※champ de fleurs:なる様が新婚グレル読みたいって言ったから…気まぐれに嫌がらせの如く送り付けたグレルー新婚さん話。
苦手な方は御注意下さいませ。
***

がちゃり、と無造作に開けられた扉。
その音が響いてしばらくして、ぱたぱたと走る足音が聞こえてきた。
頬を薄く染めて、辿々しく迎え入れる姿は初々しく。
一目で新品とわかる真っ白なエプロンがふわりと靡いた。

「お、かえり…なさい」
「…ただいま」

ふと零れ落ちる笑みをそのままに、金糸を包み込んで。
白く柔らかいその肌に唇を落とす。
ぴくり、と小さく震えた肩に苦笑して、緩く引き寄せて抱き締めた。

「なに緊張してんだよ」
「だ、だって…その…」

触れる掌に力を込めて、きゅ、と呼応するように掴めば、それを合図に交わる視線が絡み合って。
深く深く、惹かれるままに求め合う。

「んっ―――…」

息継ぐ間もなく塞がれた唇から乱れた声が零れ落ちて。
掴む指先が力を失っていった。
色付く頬は朱を帯びて。
瑞々しさを含む音が、声が理性を崩していく。
何度目かの口付けに、弱々しく返して。
隙間なく抱き締められた胸をとん、と押した。

「ま、待って…っ」

ひゅ、と乱れた呼吸が止まったことに苦笑して。
力無く寄りかかる身体をひょい、と持ち上げる。

「ふ、え…?」

熱を帯びた肌はひんやりとした掌に包まれて。
浮いたことに疑問を抱いている内にふわり、とソファへ運ばれた。
力の抜け切った身体が柔らかな生地に包まれて。
当然のように彼は目の前に迫ってくる。
漆黒の髪がゆらりと揺れて、求めるように柔らかな肌を指が滑った。
迷いのないその仕草を茫然と眺めて。
心地よい温度に身を委ねていれば、当たり前のように唇が合わさる。

「…ルーシィ」

真っ直ぐに見つめてくる漆黒に吸い込まれそうになって。
低く響く声が身体中に染み込んでくるようで。
鼻先で混ざり合う吐息に肩を震わせた。

「あ…あの…」

羞恥に染まった頬を隠すように俯いて。
段々と弱まる声をなんとか紡ぐ。

「っ…ご、ごはん…出来てるんだけど?」

揺れる黒髪の背からは温かさを強調する湯気と香ばしい香り。
触れる時を待ち続けていた手から逃れることは決して容易ではなく。
しかしながら、帰宅時間に合わせて作り上げた夕食が冷めていくことを見過ごすことも出来ない。
そろり、と見上げて覗き込んだ表情は二度三度口を開いて。
諦めたように溜息を吐いた。

「お、まえなぁ…」

こつん、と合わさった額。
名残惜しそうに離れる距離に胸を撫で下ろす。
ほっとしたのも束の間。
不意に引かれた腕はぽすん、とその胸に捕らわれて。
確かめるように強く強く抱き締められた。

「食ったら…続き、するかんな」

掠れる声が優しく響いて。
新しく始まった日々は甘く気持ちを溶かして。
離れていた時間を埋め合わせるように隙間なく詰め込まれる想い。
同じ部屋で暮らす日が来ることすら未だ夢のようで。
慣れる程に覚えている掌の温度も胸の鼓動を早める。
擦れ違った不安も全部。
清算していくような温かさに思わず笑みが零れた。

「ね、グレイ」
「んー?」

ゆっくりと椅子へ向かう姿を眺めて、倣うように向かいへと座る。
幸せってこういうことをいうのかな、なんて小さく呟けば。
驚いたように漆黒の瞳を見開かせて、穏やかに微笑んだ。


ねてがる


fin.
***
ちょっとやってみたかっただけ。
でも途中でナツルを入れたくなったので終わらせました。


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