※ヒューズ+ルーシィ(アースヒューズくん捏造)
今に繋がる過去 [続編]
***

気にならない、と言ったら嘘になる。
数日前に本屋で出逢った彼はエドラスで軍人をやっていた。
知っていることはそれだけで、知らないことはその他の全て。
初めはただの軟派。
多分、偶然。次は意図的。
何度も目の前に現れる彼は明らかにルーシィのことを知っていて。
掴み処のない笑顔が晴れない心を不安にさせる。
それなのに、そんな心情などお構いなしに彼は平然と、そして前触れもなく現れるのだ。
動じることのない笑みを浮かべて。

「………ほんと、よく会うわね!!」

ルーシィは低く唸るようにそう告げると、プルーを抱いている手に力を込める。
いつもの帰路。ギルドはいつも通り。
けれど、ナツはここ最近ずっと不機嫌で。
とても仕事へ行くような雰囲気ではなかった。
原因は不明だが、度々ちょっかいを掛けてくる彼が無関係の様には思えない。

「偶然、じゃないわよね」
「勿論」

にっこりと返された笑顔に頬が引き攣る。
だってここはルーシィの家の前。
相変わらずの身軽そうな服装に、眼鏡。
そして、片手に開いている本は読みかけだが物語は中盤へ差し掛かっている様子。

「待ってたんだ、君を」

くすりと笑みを零して、一歩。
近付いた歩幅に合わせて、ルーシィは足を引いた。

「な、何の用よ」
「………そんなに警戒しなくても怪しいモンじゃないよ、オレ」

呆れたように溜息一つ。
困ったように眼鏡を押さえるとヒューズは近付いた分、身を引いて。
安全を証明するようにルーシィの家の扉から数歩離れた。

「まず、妖精の尻尾だってわかってた理由」

そうして、ヒューズはつまらなそうな様子で淡々と説明の言葉を紡ぎ出す。
トン、と指されたのは手の甲。
同じように手の甲へと視線を移せば、そこには桃色の紋章。

「その紋章はどこに所属してるかを証明するものなんじゃないの」
「―――あ」
「次に、君が妖精の尻尾の人間だってわかってて声を掛けたわけじゃないよ」
「え?」
「君がルーシィ・ハートフィリアだって確信して近付いた、が正解」
「………どういう意味?」

終始、笑顔を崩さない様子が胡散臭いと思ってはいた。
何かを知っているような口振りと表情。
けれど、フルネームを知っていて近付いてくる人間に好意的な印象のないルーシィは心が急速に冷えていくのをまるで他人のように感じていた。
そんなルーシィの変化を意に介す様子もなく、ヒューズは言葉を続ける。

「ジュードさん」

紡がれた名前にぴくりと肩が震えた。
事業の失敗によって一から仕事を始めたジュード・ハートフィリア。
甦るのは良い思い出よりも哀しいものばかりで。
違うと頭では理解していても込み上がる嫌悪感をどうすればいいのか、ルーシィは迷っていた。

「―――…父が何か?」
「別に。興味があっただけ………ジュードさんの娘に」

そう告げたヒューズの口調や表情からは既に『興味』はなくなっていた。
しかしながら、あからさまに変わった雰囲気にヒューズは繋ぐ言葉を選んだ。

「オレ―――アカリファにある商業ギルドに所属してるんだけど、そこでジュードさんとは何度か一緒に仕事したこともある」
「商業ギルド?」
「そう……で、今回マグノリアで仕事するって言ったらあんたのこと聞いてさ」
「お父さんから?」
「ジュードさんのことは尊敬してる。だから、その人に親の目をさせるあんたに興味があった」

ヒューズの言葉を反復するように繰り返すルーシィ。
その心は此処にはないようで。
『親子』がどんなものか知らないヒューズは茫然としているルーシィを眺めながら普段は寡黙な彼が珍しく零した一言を誰に告げるでもなく口にした。

「今更どう接したらいいのかわからないって……笑ってたんだ」

それが不思議で、興味深くて、親という存在が温かいもののようで。
その繋がりを確かめて見たいと思った、のに。
実際に声を掛けて見れば、話すことなど碌に出来ず、挙句の果てには邪魔される始末。

「あんたとはゆっくり話してみたかったんだけど……」

ヒューズはそう口にして数秒、視界の端に映った桜髪の少年と青い仔猫を認識すると盛大な溜息を吐き出した。
そうして無邪気そうに笑うと軽快な足取りで踵を返す。

「オレ、一応今日までの滞在なんだわ。マグノリア」
「へ?あ…」
「だから、今度は遊園地でも行こうよ」

眼鏡越しに覗いた琥珀の瞳には涙が滲んでいて。
にっこりと模った笑顔に焦る様が可愛い、なんて。
柄にもないことを想いながらルーシィ目指して真っ直ぐに走ってくる桜髪の少年にひらひらと手を振って、ゆっくりとその場を離れた。
背後からは怒鳴るように彼女の名を呼ぶ彼の声。
そして、睨みつけるような鋭い視線。
聞こえてくる会話は子供染みていて、ヒューズは呆れたように独り言ちた。

「先は長そうじゃん」


***
『2011年のヒューズ祭りの続き』ということで『今に繋がる過去』《続編》。

企画への御協力ありがとうございましたー!!!


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