当たり前のように声をかけられて。
振り向けば、揺れる瞳が確信を持って向けられた。

「またか」

眉根に皺を寄せて面倒そうに答えれば、悪戯に象った唇が艶やかに光る。
溜息ひとつ、乱暴に漆黒の髪を掻き交ぜて。
既に分かっている言葉の先を促すように視線を合わせた。
かちり、と真っ直ぐに交わった瞬間、彼女はにっこりと表情を緩める。

「ね、買い物付き合って」

予想通りのその言葉に引き攣りかけた口の端を結んで、気怠そうに息を吐き出した。
次いで、強調された桃色が潤いを見せる唇へ親指を押し付けて。
一瞬だけ瞳が大きく見開いて、呼吸が止まる。
朱を彩り始める白い肌に気を良くして。
愉しそうに口角を上げて、未だ動けそうにないその顎に手を掛けた。

「え?ちょっ…と…っ」

震える耳朶へ唇を寄せれば、熱く昇る肌の熱を空気が伝える。
細めた視界に映る白い項へ惹かれるまま沿って、静かに囁いた。

「仰せのままに」

止まった息が吐息に混ざって零れ落ちて。
見る間に熱を帯びる頬が羞恥を知らせて。
視線を下げることも適わず、琥珀色が困ったように揺れる。
離れた後も茫然と立ち止まる姿に思わず苦笑して。
くっく、と喉を鳴らしながら柔らかく流れる金糸をくしゃりと掻き混ぜた。

「っとに純情だな。人に荷物持たせようとしてるとは思えねぇ」

からかうような口調は触れる掌からひんやりと確かな冷たさを伝えて。
軽快な動きの中で際立つ繊細さは捻くれたように零す笑みに誤魔化される。
唐突にふんわりと優しく微笑む柔らかな空気にルーシィは二度三度、口を開けては閉めて。
紡ぎ出せなかった声を打ち消すように漸く一言。
赤く染まる頬を隠すように早足でギルドを出て行く彼女へ倣って、グレイは後に続いた。
年相応な女の子らしく、先程まで艶やかに染まっていた頬はすっかり健康的な色を取り戻して。
浮足立ってあちらこちらへと足を向けては気になった服や小物を手に取る。
その様をのんびりと後ろから眺めていれば、不意に金糸がふわり、と靡いた。

「ね、これ…」

かちゃり、と小さく鳴ったそれはルーシィにしては少しだけ違和感を覚えるデザインで、シルバーに下がるトップが重たそうに揺れる。
言いづらそうに視線を泳がせて、覗くように上げられた瞳。

「…なんだよ?」
「グレイが…着けてるのに似てる、ね」

熱を帯びた白い頬がほんのりと色付いて、はにかむように首を傾げるルーシィ。
一瞬、時が止まったように耳へ入る音が消えた。

「グレイ?」
「あー…」

止まった思考が引き戻されて、火照る額を押さえるように視界を覆って。
意識するよりも先に重ねて引いた手。
緩く引かれるままにその身を委ねて、ふわふわと揺れる漆黒を眺めながらルーシィはくすり、と笑みを零した。

「ねぇ、真っ赤…」
「…仕方ねぇだろ」


余裕なのは一時だけ


fin.
***
君とぼく。:彼方さまへちゃっかり相互記念に書かせて頂きました。

男らしいけど不意に照れちゃうグレイさんが好きです。
可愛い可愛いルーシィが恥ずかしそうに紡ぐ言葉に釣られて赤くなるけど、相手が照れたら途端落ち着くルーシィが好きだったりする。
そんなコンセプト。

可愛い可愛いかなたんのワガママを叶えたくて相互記念として押しつけてみる。
こんなグレルーでも良いかしら?

always love you*


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